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「キラ兄さんも水火も、ラピスの望みを叶えたいと思ってる。でもわたしは……」  金色の髪の少年の別名を口にしながら、幼女は昼間にも伝えた思いを改めて表明する。 「悪魔になったラピスでいいから、ラピスに戻ってきてほしい」  それが唯一、悪魔使いたる幼女に観えていた道だ。生きるために悪魔と契約した娘を呼び戻せる、たった一つの方法だった。  真摯に公家達を見つめ、本当の思いを口にした幼女に、誰もがしばらく黙っていた。 「…………」  公家はしばらく、痛ましげな顔付きで幼女をまっすぐに見つめる。そして哀しげに、静かにかぶりを振った。 「猫羽殿……死者を呼び戻すのは本来叶わぬことであり……その摂理に逆らうなら、相応の歪みが再び死者を苦しめることとなる」 「……」 「生きる力を持ちながら、身体を失った生者も稀に存在するが……猫羽殿の姉君に関しては、残念ながらそうとは思えぬ」  その娘の願いは、行き過ぎてはいるが間違ってはいない。あくまで死者本人の苦しみを思い、公家はその先を続ける。 「たとえそれが誰かのためでも……良くない行いは、基本的にしてはいけないのじゃよ、猫羽殿」 「…………」  まっすぐにこちらを見て諭す公家に、幼女はぐっと口を引き結ぶ。 「その時はそれで良くとも、物事とはそれで終わりではない。そこまで苦しまれた姉君を、猫羽殿がその先、ずっと支えることなどできぬ」  それは幼女自身のためにもならない、と。公家の深い黒の目には、守る側の痛みが湛えられて余りあった。 「猫羽殿もユーオン殿も、あまりに『今』が観え過ぎるため、どうしてもその点は後回しになってしまうようじゃが……」  そのために、できることは何でもすると、死神や処刑人となる道を辿った危うき古い命。それに可能な限り歯止めをかけるような公家の声だった。
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