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不審な化生についての問題は、もう少し考えます。と言って、術師の子供が父たる公家の居場所を退出した後のことだった。
「……え?」
「…………」
既に夕闇が訪れた暗い廊下を、きびきびと歩く小さな人影の後ろを、幼女はとことこと必死についていった。
「……どうして、ついて来るんですか?」
「……」
相談していた公家の隣に始終座り、それでなくとも公家の手が空いている時は、常にべったりと甘えている幼女。立ち止まった術師の子供が難しい顔で振り返った。
「……」
術師の子供の不可解そうな表情に、気持ちが少し挫けそうになったが、
「……これ」
昼間に、没収されかけたPHSとぬいぐるみを、幼女はそっと差し出す。
術師の子供は、無表情な幼女を困ったような顔で見返してきた。
「……大切な物じゃないんですか?」
「うん……でも、あると多分、使っちゃうから」
公家に諭されたことが痛く響いていた。諦めるわけではないが、もっと何か、明るい方法を考えなくてはいけないと思った。
力無く悪魔という手段を差し出す幼女に、尚更困ったような表情を術師の子供が浮かべる。
「普通の使い方も、わたしはわからないし……ユウヤの言うこと、正しかったと思うから……」
ぬいぐるみはともかく、PHSのような近代の複雑道具は最早お手上げでもある。
項垂れる幼女に、はあ……と、術師の子供が、頭痛を抑えるように片手で頭を抱えながら溜息をついた。
「貴女は確かに……ユーオン君の妹さんですね」
「――?」
くるりと術師の子供は、そこで踵を返すと、
「……ちょっと来て下さい。こんな物の使い方は、貴女なら一度説明があれば大丈夫です」
様々な意味を含めて言った相手。幼女は一瞬目を丸くして、さっさと歩いていく術師の子供を、またとことこと必死に追いかけることになった。
術師の子供が足を向けたのは、少し前には金色の髪の少年が貸し与えられていた、飾り気も家具もほとんどない畳の一室だった。
「……兄さんの匂いがする」
「好きな時に使って下さい。ここはずっと空き部屋ですから」
淡々と言う術師の子供の意図に、あれ。と、幼女はやはり目を丸くする。
「ここでなら……悪魔、呼んでいいの?」
「ごく低級で父様達に気付かれない範囲なら。その二つの依り代には、それで充分でしょうし」
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