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「そんな状態で父様の手を煩わせれば、父様にまで何か害があってもおかしくありません。少なくとも父様に、相当大きな負担になることは間違いないですし……」
それならなるべく、先に策を練っておきたいと、術師の子供は考えたのだ。父親がそれを決して放置しないとわかるために、なりふりかまわず情報を集める気になったようだった。
優しい公家に、あまり負担をかけたくない思いは幼女も同じだった。
「あのヒトは多分……記憶を奪う神様の一部だったヒトで……」
真剣に考え込みつつ、イメージを伝える言葉を必死に探す。
「神様から追い出されて、生きてないから、死ぬこともなくて……殺すこともできないと思う」
「――殺さないと霊障の解除はできないんですか?」
う。という顔で反応した術師の子供に、ううん? とあっさり首を横に振る。
「ラピスが願いを変えるか、あのヒトの気が変われば、すぐに何もなくなると思うけど……あのヒト自体を消しちゃうのが、多分一番簡単だと思う」
その化生が使う躰は、弱小な人間の女に過ぎない。
化生自体を滅ぼすことはできずとも、霊障を引き起こす媒体の躰を抹消することはできる。旧き処刑人は淡々と口にする。
「あのヒトは剣でしか戦えないし、それも人間の力で、受身が基本だと思うから……力があるヒトなら、すぐに消せると思う」
「それはあくまで、最悪の手段ですけど。あのヒトは――人間なんですか?」
「あのヒトの躰は、ラピスのお母さんのだよ。だからずっと、お母さんの霊が一緒にいたんだよ」
……と。無情なことを言う幼女の理由に、そこで思い至ったように、術師の子供は厳しい表情を少し柔らかくしていた。
「それじゃ、抜け殻というのは……命無き死体が、どうしてか動き回ってるということですか?」
「あ、そっか……そう言えば良かったんだ」
いわゆるゾンビやキョンシーの類ですか、と、幼女には理解不能な単語を術師の子供が口にしていた。
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