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「魂魄の魄が不自然に残り、死鬼化した者。魔性の者に殺されたか、自ら命を絶ったヒトなんですね」 「うん。ラピスのお母さんは、ラピスを殺して、その後自分で死んじゃった気がする」  ……と。その悲愴で痛ましい事実に、術師の子供が再び表情を険しくしていた。 「……色んな霊は見てきましたけど……霊として実害はないのに、そんな酷いことをして亡くなったヒトもいるんですね」  その心霊に、本質的に悪意は見られなかったのだ。だから以前から視えていても、術師の子供は無理に祓わなかった。 「ラピスのためだと思って、そうしたんだと思うよ」  意外そうな相手に、さらりと狂気を伝える幼女だった。 「それじゃ……死鬼化した死体を乗っ取ったのが、記憶を奪う神の力を使える、謎のヒトってことですよね」 「中のヒトも命はないから、ユウヤ達の目でもどんなヒトかはわからないと思う。魂だけ、に近いのかな……?」  すっかり作戦会議の様相を呈してきた状況で、そこではっと、術師の子供は大事なことに気が付く。 「そう言えばどうして貴女は……ユーオン君と同じ、そこまで色々わかる直観を持ってるんですか?」  瑠璃色の髪の幼女は本来、瑠璃色の髪の娘と生き写しの妹のはず。ただの人間であるのに、と思い至ってしまったらしい。 「ユーオン君とラピさんは、血は繋がってないですよね?」  そもそもからして、ラピスの母、と姉達のことを他人事で語り、養子の兄とは人間と化け物という違いのある者。怪訝な顔で幼女を術師の子供が見つめ直す。 「まさか貴女は……ラピさんの……」 「……うん。わたしの躰は……ラピスがわたしにくれた体だよ」  その鋭い術師の子供には、隠し通せることではない。  この相手に対しては、何の制限も存在しない。一番言いたくなかったことだが、まっすぐに術師の子供を見つめて、現実を口にした。 「兄さんがわたしを見つけてくれて――ラピスが消えちゃって。だからラピスの体を、わたしがもらうことになったよ」 「…………」  それは決して、祝福を受けるべき誕生ではない。むしろ誰もが、呪われた生と思う類のものだろう。でもこの幼女だけは、自らにその呪いを認めない。 「ラピスはわたしを助けてくれたから……わたしもラピスの助けになりたい」  これを否定してしまえば、瑠璃色の髪の娘の願いも否定される。  だから体をもらった幼女は、そうしてくれた娘の幸薄さだけが辛かった。  既にかなり込み入っていた事情を、改めて知った術師の子供は、複雑さを持て余す表情になった。その後、かなり長い間考え込むこととなった。
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