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そして術師の子供が、再び顔を上げた時には――
ある決意と共に、凛とした力強さを深い黒の目に湛えていた。
「ラピさんがもし、思い直してくれたら……あのヒトの霊障も、解決できることなんですよね?」
「……?」
「もしかしたら――魔界からラピさんを呼べるかもしれません」
術師の子供が持つ呪いの力。呪術的な知識と、悪魔の使役に長ける幼女の力を合わせれば、悪魔に魂を奪われた相手に働きかけることができる。
それを確かに、その深い黒の目は、幼女に訴えかけてきていた。
それをまるごと受け止めた幼女は、時間が止まったように、呼吸すらも忘れて尋ねた。
「ラピスに……会えるの?」
術師の子供をじっと見つめながら、息を飲んで尋ねる。
「確証はないですけど……試してみる価値はあります」
そして真剣な顔の術師は何故か、場所を変えましょう、と。幼女を連れて、その空虚な和室を後にしたのだった。
術師の子供と瑠璃色の髪の幼女が、かなり苦労して辿り着いた場所は、何故か御所の一角の屋根の上だった。
「……寒い……」
ぶるりと、着物の袖に両手を隠して呟く幼女に、
「使って下さい。屋根が寒いのはわかりきってますから」
行き道のいったい何処で入手したのか、羽織れる物をあっさり手渡す行き届いた相手。幼女はまたも、ぽかーん、と尊敬の眼差しを向ける。
そしてもう一枚、かなり大きな薄布を、術師の子供が畳まれた状態から広げた。
「これに、貴女が知ってる悪魔召喚の方陣は描けますか?」
「……うん、多分」
術師の子供から墨と筆を手渡される。何処まで用意がいいのかと、幼女はただただ感服する。
「ちょっとゴツゴツしてるから、時間かかると思うよ……」
瓦の屋根に布を敷き、地面に落書きをするように、円陣に近い模様を描き始めた。
「僕も皆に気付かれない結界を考えますから、慌ててもらわないで大丈夫です」
「……それ、ユウヤがすると、しんどいと思うよ」
「?」
地面に向かいつつ、幼女は術師の子供をちらりと見上げる。
「気付かれないようにするの……多分、わたしもできる」
「え?」
「それより、こっちの魔方陣……ユウヤが使ってくれた方が、いいと思う。ユウヤは人間の血が沢山あるから、できると思う」
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