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そして――
死者の蘇生を願い魂を呼ぶ呪いの術と、人間にのみ可能な、縁の強い魔を呼び出す秘儀を、一同に介する。
何一つ隙もなく、確実にその術師――
一部では魔王と囁かれる程、天才術師である子供により、二つの魔道が同時に起動される。
「……え?」
「……あ」
魔方陣から激しく強い、紅い光が一瞬放たれた後。
一部では魔王と囁かれる程の、強い「魔」がそこに顕れていた。
大変なものを喚び出していた。
幼女の頭上に浮かんだ黒ずくめの人影が、抱える膝を少しずつ解きながら、妖艶な微笑みを浮かべる。
「あら、誰かしら……私を喚べる程の人間がいるなんて……」
呆気にとられる子供二人の頭上で、黒のタイトな礼装に身を包み、空のように青い真直ぐな長い髪の女が、色の無い鋭い目をゆっくりと開く。
「我が真名を……聖魔アスタロトと知っての狼藉かしら……?」
薄い琥珀色の、毛皮の襟巻を纏う以外、まさに黒一色の礼装の女。微笑みながら殺意を秘めた、紅い眼光が夜にきらめく。
想定外過ぎる術の結果に、唖然とした術師の子供が無言な中、
「……母、さん?」
同じように唖然としながら、幼女も呟く。
その「魔」の正体。あまりに高位過ぎて、喚び出すなんて発想は持てなかった相手。
それでも女に気付いた瑠璃色の髪の幼女に、あらら……? と、女がゆっくり首を傾げた。
そして……。
「あれーっ! よく見たら烏丸頼也君の次男君だーっ!」
術師の子供が更に唖然とする固有名詞を、次に出したのだった。
きゃあきゃあ、と、それまでの怜悧な厳かさは何処へやら。喚び出された女は楽しげにふわふわと、自身の膝に頬杖をつき、子供二人を無防備な笑顔で見下ろしてきた。
「そっかー君かぁ、悠夜君かぁー♪ そりゃあたしのことだって喚べるよねぇ、噂のプチ魔王・悠夜君なら♪」
「え……――え?」
様々に聞き捨てならない女の台詞に、術師の子供は少し理性を取り戻したらしい。あまりに様相の変わり果てた、顔見知りだった女をようやく思い出した。
「貴方は……まさか――」
「そうそう、可愛いラピちゃんの育てのおかーさんでーっす♪ 正確には今は聖魔アスタロト・流惟・棯、しかしそれは世を忍ぶ仮の姿、実際は魔竜の巫女という何とも悲運、ティアリス・アースフィーユ・ナーガちゃんなのでっす!」
魔方陣の内にいる間は、悪魔は召喚者の問いに正直に回答しなくてはならない。そのため必要以上の情報を楽しげに口にする。
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