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「私を母と呼ぶなら、いつでもうちまで遊びにいらっしゃい。ただし――命を落としても知らないけどね?」
幼女の願いは聞かないが、代わりのプレゼントと言うように、何かの鍵をぽん、と女が放った。
「……?」
それをキャッチして、幼女は首を傾げる。その前で、女の姿は少しずつ薄まり始めた。
「――待って、流惟さん……!」
赤い髪の娘が、事情が全くわからないまま、ただその相手――友人がとても慕った養母を咄嗟に引き留める。娘達の前にはよく着物姿で、穏やかな笑顔で現れていた者が、今では見る影もなかった。
「……またね、鶫ちゃん?」
露出の多い黒の礼装に、確実に際立って目立つアクセントの襟巻。薄い琥珀色の尻尾をひらりとなびかせる。
そうして有り得ない程、高級な魔の召喚に成功した契約の儀を閉じ、その魔は夜の闇に還っていたのだった。
女の姿が完全に消えて、しばらくして。
術師の子供が不服気に、赤い髪の娘が抱える瑠璃色の髪の幼女を見上げていた。
「……どうして鶫ちゃんにだけ、ばれちゃったんですか?」
「――ちょっと。悠夜も猫羽ちゃんも、何をする気だったの?」
赤い髪の娘も茫然としつつも、捨て置けない現状を先に尋ねる。ひとまず理性を取り戻し、二人の小さな子供を見つめる。
幼女は正直に、口に出せる範囲で事情を説明する。
「ラピスとお話したかったけど……母さんが出てきちゃった」
「……あのヒトは、本当に流惟さんなの?」
娘もそれを感じていながら、あまりに変貌していた相手に、納得いかなげにする。
「だからユーオン君達、助けに行ったんだと思うよ、鶫ちゃん」
「……本当、不穏事ばかりなんだから、ユーオンの周りは」
ようやく一つの事変が決着したらしいことも束の間。なかなか平穏に身を置けない少年に、赤い髪の娘が大きな溜め息をついた。
「悠夜も猫羽ちゃんも、無茶なことはしちゃダメよ。私達に何か、できることがあれば手伝うから……」
心配そうに言う娘に、子供二人はちらりと顔を見合わせる。
じゃあ、と真っ先に幼女は、遠慮なくそれを口にした。
「ヨリヤお父さんには……言わないでね?」
そして幼女は、握り締める何かの鍵の、驚くべき力を語る――
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