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 その黒い女と剣士の少年の、互いの剣一つによる攻防は――  小躯のヒトの身ではまさに、最上のものといって良かった。 「凄いな、蒼潤君てば。私が今まで戦った中では、最年少かつ最上級の剣士で間違いないですね」 「……!」  無駄な言葉を発する分だけ、黒い女には余裕があった。  それもそのはず、黒い女の細身の剣は受け流しと捌きを基本とし、まるで剣を防具のように扱っている。縦横無尽に挑み来る剣士に、最低限の動きで応じられている。 「すみませんねぇ、大人はキタナイんです。私の目的は、君と戦えれば果たせてますしね?」 「この――!」  決着を全くつけようとせず、隙も無い不真面目な達人。腹立たしげに剣士の少年が一度距離をとる。 「何がしたいんだ、あんたは」 「だから言ってるでしょ? 危ない子供を止めたいだけだって」 「それはただの過保護だろ。大体何で俺達があんたに、そんな世話を受けなきゃいけないんだ?」  再び斬りかかってくる剣士に、黒い女が平和に微笑む。 「ご尤もです。蒼潤君はとても真っ当ですねぇ」  無責任なままの声と太刀筋で、女はその刀をただ受け流す。 「蒼ちゃん凄―い、かっこいいー! でもスカイさんも凄―い!」 「槶……何でそんなに楽しそうなのよ……」  すっかりその剣士達に見とれる帽子の少年に、子供組をかばうように立ちながら、赤い髪の娘が溜め息をついた。 「援護しようにも、蒼は邪魔するなって怒りそうだし……」 「あの間合いだと、どの道援護も難しいよ、鶫ちゃん」  持久戦に持ち込んだ黒い女は、巧みに剣士の少年と距離を詰めたままでいる。周囲が援護しにくい状況にも持ち込む周到さだった。 「でも何か、雨も降りそうだし……あまり遅くなれば、今日は諦めるしかないわね」  気が付けば周囲には、川辺だけを中心に暗雲が立ち込めていた。 「凄いや蒼ちゃん! 雷雲を背に戦うなんて、これぞ勇者のカガミだよね!」  いつの間に剣士から勇者になったのか、まさにどす黒い雷雲といった空の翳り方に、尚更帽子の少年のテンションが上がる。  黒い女と剣士の少年は共に、その黒い空を背にして戦う。 「残念ですが――本気じゃない蒼潤君には負けないですよ?」 「……!」  一対一の剣戟であっても、女に特技を出し惜しみする気はなかった。  そして一筋の稲光が、場を眩く照らした瞬間――  剣士の少年の前から、黒い女の姿は消え去っていた。
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