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「……え?」
「――あれ」
その青い光が、川辺を包んだ半瞬後だった。
「あれ、ここ何処? 猫羽ちゃん、他のみんなは何処?」
「……クウとわたししか、ここにはいないよ」
突然、夜に近い夕方のように川辺が暗くなった。何故か帽子の少年と、瑠璃色の幼女しか姿がなかった。
「とりあえずこっちに来て――手を離さないでね、猫羽ちゃん」
こくりと頷く幼女を守るように、帽子の少年の顔に僅かな緊張が入る。それも無理のない状況がそこにあった。
穏やかながら力強い流れだった川が、それまでと一転して、寂しげな拙い流れに変わっている。暗い空には稲妻が走り、川辺に落ちることはないが、場の不穏さを引き立てて余りあった。
「……あれ? ヒトがいる……?」
そんな不穏で、何処か物悲しい暗がりの中で――
川辺をゆっくり、ひたひたと歩く、裸足の人影があった。
「――……!」
その姿に一瞬で、瑠璃色の髪の幼女の全身に痛みが走る。
クスクス、と――……夕闇の中では黒髪にしか見えない、肩までのふわふわとした髪の女は、節穴のような暗い黒の目で宙を見ている。
帽子の少年の視線に気が付き、ゆっくりと振り返った。手に何かを持っている女は、ただ、幸せそうな顔で笑いかけた。
「……え……?」
その童顔の女の、危うげに明るい笑顔は――帽子の少年には覚えがあるはずだった。
「クウ――……見ない方が、いい――……」
ぎゅっと繋いだ手を握り締める、幼女の声も届いてくれない。
――アナタ……シルファの、お友達……?
稲光が走った瞬間、照らされて色のわかった瑠璃色の髪。そして藍色の目。
その女は間違うことなく、似た色の髪と目を持つ娘に生き写しの実の母だった。
「ラピ……ちゃん?」
「……――」
そこにあるのはただの映像に過ぎないと、幼女はわかっている。
それでも胸があまりに痛かった。赤い夢がまさに今、じかに再生されているからだ。
言葉を発することができない幼女の横で、帽子の少年もしばらく、呆然と立ち尽くしていた。
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