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それがあまりに鋭い痛みで、無情な現実であったためか。
温かな所で生きてきた者達に、その重さを気取られないことを誰かは願った。ただ、その闇を決して映されないことを。
「……あいたたた」
「――⁉」
剣士の少年から不意に距離をとり、黒い女が厳しげな顔で立ち止まった。真剣な剣士が怪訝な視線を向ける。
「参りましたね……入り込んだつもりが、入り込まれてました」
「――は?」
他者の深奥。その境となる記憶の一部を、天つ空の下に開く黒い女の夢は、自然感覚の強いものには気取られ得ること。
「忘れてはもらいますが……下手したら少々、トラウマですね」
それは黒い女の本意ではない。女が自らの特技を振るったことで、巻き込まれて誰かの痛みを垣間見た者を思い、物憂げに呟く。
女と剣士の少年の攻防を、ずっと見守っていた側では、
「槶……ちょっと、槶⁉」
「――……あれ?」
ふっと我に返った帽子の少年の前で、術師の子供が必死に、少年の上着を引っ張って呼びかけていた。
「悠夜君……あれ、猫羽ちゃん、どうしたの?」
「ヒトの心配してる場合じゃないよ! 今まで何処か、変な所に引っ張られてたんじゃない⁉」
しばらく意識の飛んでいた帽子の少年。隣では赤い髪の娘が、蹲る幼女の横で膝をついて、心配そうに介抱している。その方が帽子の少年は気になったようだった。
そしてその状況は、術師の子供だけでなく――
幼女を守りたい者にも、許容範囲を超えた瞬間だった。
「……――ソウ、危ない……!」
「――⁉」
痛む胸を押さえながら必死に顔を上げて叫んだ。同時に術師の子供も赤い髪の娘も、場を襲った異変に気付くこととなった。
「……!!」
咄嗟に大きく退いた剣士の少年と、黒い女がいた場所へ――
「……あらら……」
「――蒼⁉ 蒼⁉」
どちらの剣士の姿も隠す土煙を上げる程、極太い氷柱のような真っ白い氷の刃が、いくつも川辺に降り注いだ。
「必死にしぼっても……これくらいか……」
くすりと、その紅い「魔」は、氷を呼んだ腕輪を腕に戻したのだった。
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