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黒い女と戦っていた剣士の少年だけでなく、下手をすれば場の者を全て巻き込みかねない、突然の強い氷の力。
「兄様、大丈夫ですか⁉ お怪我は⁉」
「別に無事だが……あの女は、いなくなったな」
飛来した氷も斬れる兄程の達人でなければ、確実に回避不可能な力が放たれていた。兄の無事を確認した後で、術師の子供が厳しい目線を向けた。
「危ないじゃないですか! せめて声くらいかけて下さい!」
「やだなぁ。烏丸君なら大丈夫って、信じてたんだけど」
堤防から川原に下りてきた紅い少女は、悪びれもなく平和に微笑む。
「エルフィから、うちに来るって聞いてた皆さんが遅いから、迎えに来たんだけど。エルフィを苛めるヒトがいたから……残念だけどわたし、魔法は巧くないの」
「威張れることじゃないでしょ。力の大きさに振り回されてたら、いつか自分の身だって危うくするわ」
淡々と厳しい目で見る赤い髪の娘に、紅い少女はただ整った微笑みを返す。
「とりあえず――邪魔者はいなくなったでしょ?」
場から黒い女が姿を消していることを、改めて確認する。
その弱小な相手の排除にはそれが早いと、幼女から聞き知っていた紅い少女には当然の行動だった。
「卑怯な大人と正々堂々と戦うと、しんどくない? 烏丸君」
「余計なお世話だ。だからってヒトの戦いに手を出すな」
「ごめんね。わたしには烏丸君より、エルフィが優先だから」
そして紅い少女は、何故かずっと黙っている帽子の少年に気が付いていた。
「猪狩君? 流れダマでも当たった?」
「え?」
我に返った帽子の少年は、
「あ、いや……うん、手助けしてくれてありがとー、竜牙さん」
あははと呑気に笑った少年に、そこでブーイングが起こった。
「手助けってレベルじゃないよこれ、槶!」
「責めろとは言わないけど、褒めるのもどうかと思うわ」
「え? でもこれでラピちゃんちに行けるし、結果良ければ良しとしよーよ?」
なかなかソリの合わない、紅い少女と友人達。その間でも、帽子の少年は気楽そうに平和に笑った。
「ねぇ、猫羽ちゃん。竜牙さんが迎えに来てくれて嬉しいよね?」
「…………」
その紅い少女の迎えで、不穏さもありつつ、幼女は確かに心強かった。
赤い夢に捕らわれ、心がかなり落ちかけていたが、元気が出てきた。それに対して、とても安心したような声で口にした、いつになく穏やかな笑顔の帽子の少年だった。
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