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黒い女が心配した通りに。普通であれば、魔界に日帰りで行こうなどと考える輩は、余程の強者でなければ有り得ない話だ。
「本当……猫羽ちゃんの結界? 全然気付かれないのね、これ」
その幼女の力があれば、どんな悪魔の目もかいくぐり、一行は秘密裏に魔界に足を踏み入れることができる。それが魔界行きの決まった一番大きな土台だった。
「あらら。烙人は凄く鋭い方なのに、全然起きないわ」
物は試しと、まずは幼女の家人に気付かれないかどうか、力を使いつつ実家に足を踏み入れた一行だった。
「調子悪そうだし、休ませてあげようよ。烙人さんは体弱いし」
「そう? これでも猪狩君のお薬のおかげで、最近は随分と調子良いのよ」
居間でうたた寝をしていた家人をそっと素通りし、紅い少女と幼女の居室に、招き入れられた友人達だった。
「外見はジパング風なのに……中に入ると、何か凄いな」
内装は西の大陸風の屋内に、剣士の少年が素直な感想をもらす。
「わたし達の部屋の扉を使うなら、わたしがその後、皆さんが帰るまで、扉が閉まらないよう見張ればいいのね?」
魔界に行くための入り口を作れるという鍵。それでできた入り口は、扉を閉じれば消える上に、魔界側からは鍵を使えない。要は帰り道を作れない一方通行の欠点があると、一通り試したらしい術師の子供が難しい顔で説明した。
「何があってもこの扉は死守して下さい。それは貴女が多分、一番適任だと思います」
皮肉気にも聞こえる台詞に、紅い少女がくすりと頷いた。
「……水火に鍵も預けるし、閉まったらもう一度、水火が扉を開けるのはダメなの?」
不思議に思って尋ねると、いいえ、と聡明な術師の子供が頭を横に振る。
「開け直した場合、最初に繋がった所と、次は違う所に繋がる可能性が高いです。向こうの僕達にはその扉が何処にあるか、わからなくなるかもしれません」
「そうよね。別の地点に扉ができても、うまく探し出せるとは限らないわ」
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