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「ラピスの魂が帰ってきたら……心を呼び戻すこと、ユウヤならできる?」
「……それは……」
父である公家の憂い気な顔を思い出せば、術師の子供には頷き難いはずだ。それでもはっきりと、拒絶することもできないようだった。
「……その時があれば、考えればいいことでしょう」
基本的に、いつでも感覚で動いている幼女は、その答が何故か嬉しかった。
「ユウヤは――えらいね」
そもそもここまで付き添う必要も、術師の子供には本当はない。
「自分のこともみんなのことも、ちゃんと考えてるね、ユウヤは」
「……?」
「わたしはわたしのことしか考えてなかった。ユウヤを見習えば、わたしにできることも、もっと見つかるのかな?」
事情を全て知った上で、術師の子供は迷いながら力を貸してくれている。
この願いは幼女の身勝手な我が侭で、何処まで進んでいいのか自分でもわかっていない。それを共に考えてくれる者がいるのは、とても心強かった。
「……貴女は自分のために、ヒトのことを十分考えてると思いますよ」
その兄にも思ったらしいことを、嘆息しつつ口にした術師の子供だった。
何の変哲もない小さな黒い鍵が、部屋の外の廊下から、紅い少女の手で鍵穴に差し込まれる。
差し込むことは、強い「力」の持ち主にのみ可能な制限がある。それでも差し込んだ後の開閉は誰にでもできるようだった。
「とにかく誰もいない所に繋がるようですが……実際に何処に入るかは、猫羽さんが決めて下さい」
「……うん。もうちょっとやってみたい」
扉を開け閉めする度、扉の先には、広い建造物の一角らしき光景が入れ替わり立ち代わり現れていく。
「凄いな。どうなってるんだ、これ」
「考えても仕方ないでしょ。言っとくけど、西の大陸風の扉は全部こうなるなんて思っちゃダメよ、蒼」
当たり前だろ。と応酬するような友人達を横目に、帽子の少年は相変わらず何処か、物静かにしていた。
「広いお城だな……」
危険が少なそうな場所を探し、何回も扉を開け閉めすることにそろそろ疲れてきた。溜め息混じりに再び扉を開けた後だった。
「――あ」
「……いい所、あった? エルフィ」
こくりと頷く。扉の先に広がったのは、暖炉と煙突のある、おそらく上方の階の何処かの一室だった。
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