3人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
それじゃ、と紅い少女は、幼女に代わってドアノブを持った。
「行ってらっしゃい、皆さん。くれぐれも、身も心もご注意を」
心配など欠片も窺えない虚ろな微笑みで、剣士の少年を先頭に、扉に入っていく一行を見送る。
「さてさて……どれくらいの時間、持つかしら?」
廊下と扉の間に敷いた座布団に座り、自らの体で扉の閉鎖を防ぐ。おもむろに、愛用の武器らしき白い三日月型の柄の片手剣の、手入れを始める紅い少女だった。
扉に入ると、何故かすぐ見えていた場所に出るのでなく、暗い道を少し歩いた。向こう側に出てみれば、元いた場所は全く入った先からは見えなかった。
「今回の出口は、この柱時計の下の棚のドアみたいね」
「えらく小さい所から出てきたな。帰りこれ、入れるのか?」
「体の一部さえ入れば、後は通れてしまうと思います、兄様」
ジパングとはかけ離れた建築様式の、冷たい石の床。褐色のシンプルな模様の絨毯がひかれ、大きな木製の古い柱時計や、薪のない暖炉、数人がかけられる長椅子がその部屋にはあった。
「いわゆる客間なのかしら? それとも私室?」
「そんなに広くないし、個人用のものだと思うよ、鶫ちゃん」
窓はないが、暖炉から覗ける煙突の先に、四角く切り取られた紅い空がある。
どう考えてもそこが、これまで一行のいた青い空の下とは違う、異世界であることを示していた。
「宝界」と「魔界」。一行がいた宝界という世界は、様々な世界に通じる中継地点として、強い「力」を持つ化け物にのみ世界間の移動が可能とされている。
「ホントに来ちゃったのね……魔界……」
「何だ、鶫。怖気づいたのか?」
「って、蒼ちゃんは全然怖くないの? 僕達、ジパングからもほとんど出たことないんだよ?」
それが突然、異世界に――それも特に性質の良くないと噂の、危険な化け物の巣窟に足を踏み入れることなった少年少女達。その理由となった幼女を改めてまじまじと見つめる。
最初のコメントを投稿しよう!