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 それじゃ、と紅い少女は、幼女に代わってドアノブを持った。 「行ってらっしゃい、皆さん。くれぐれも、身も心もご注意を」  心配など欠片も窺えない虚ろな微笑みで、剣士の少年を先頭に、扉に入っていく一行を見送る。 「さてさて……どれくらいの時間、持つかしら?」  廊下と扉の間に敷いた座布団に座り、自らの体で扉の閉鎖を防ぐ。おもむろに、愛用の武器らしき白い三日月型の柄の片手剣の、手入れを始める紅い少女だった。  扉に入ると、何故かすぐ見えていた場所に出るのでなく、暗い道を少し歩いた。向こう側に出てみれば、元いた場所は全く入った先からは見えなかった。 「今回の出口は、この柱時計の下の棚のドアみたいね」 「えらく小さい所から出てきたな。帰りこれ、入れるのか?」 「体の一部さえ入れば、後は通れてしまうと思います、兄様」  ジパングとはかけ離れた建築様式の、冷たい石の床。褐色のシンプルな模様の絨毯がひかれ、大きな木製の古い柱時計や、薪のない暖炉、数人がかけられる長椅子がその部屋にはあった。 「いわゆる客間なのかしら? それとも私室?」 「そんなに広くないし、個人用のものだと思うよ、鶫ちゃん」  窓はないが、暖炉から覗ける煙突の先に、四角く切り取られた紅い空がある。  どう考えてもそこが、これまで一行のいた青い空の下とは違う、異世界であることを示していた。  「宝界」と「魔界」。一行がいた宝界という世界は、様々な世界に通じる中継地点として、強い「力」を持つ化け物にのみ世界間の移動が可能とされている。 「ホントに来ちゃったのね……魔界……」 「何だ、鶫。怖気づいたのか?」 「って、蒼ちゃんは全然怖くないの? 僕達、ジパングからもほとんど出たことないんだよ?」  それが突然、異世界に――それも特に性質の良くないと噂の、危険な化け物の巣窟に足を踏み入れることなった少年少女達。その理由となった幼女を改めてまじまじと見つめる。
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