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その山里は、古の結界に守られた隠れ里だった。
鬼や妖、千種の種族など、この世界には様々な「力」を持つ化け物が住んでいる。最も商業が発達し、力無き人間の多い「西の大陸」の奥地では、人間の里でありながら大陸内の都市のように発達はせず、結界という人間ならぬ力に守られた山里があった。
「……あなた……名前は?」
その山里で、山菜を採っていた幼い子供に話しかける、異邦の人影があった。
「シルファだよ。おねえちゃんは、だれ?」
にこにこと明るい顔で、瑠璃色の髪を二つ括りにした子供が笑う。それに話しかけた人影は、同じくにこにこと微笑みを返す。
「こう見えてもおばあちゃんなの。おばあちゃんの悪魔よ」
人影はどう見ても十代半ばで、尖った耳と長くまっすぐな銀色の髪の、孔雀緑の目をしている。類稀な美形の顔立ちをした少女だった。
立ち居振る舞いが落ち着いているせいか、少女より女性という方が似合う人影が、何故か自身をおばあちゃんと名乗った。
「……アクマのおばあちゃん?」
まだ六歳に過ぎない幼い子供は、女性の言葉を理解できず、ただ深い青の目を丸くして女性を見上げる。
「おばあちゃんは、どうしてここにきたの?」
理解はできないながら、相手を尊重するしっかり者の幼い子供。女性は軽く苦笑い、しゃがんで目線を合わせる。
「私も昔、ここに住んでいたの。もう百年以上は前だけど……だからここでの大切なお仕事を、私が頼まれたのよ」
「そっか。それならおばあちゃんも、シーたちのなかまだね」
隠れ里たる地に住む人間は、基本的に外部との関わりを嫌う。そもそも里の者でなければ結界の内に立ち入ることもできない。
そのために、里へと立ち入れる魔物の女性に、その内の古い禍を再び封印してほしいと依頼があった。よく様々な仕事をさせる死天使の上司から頼まれて、女性はその里に来ていた。
「おしごとってなぁに? たいせつなことなの?」
「ええ。放っておくと、この里には良くないことだと思うわ」
そっか、と子供は、それが女性の厚意と疑わない顔で微笑む。
「じゃあシーも、おてつだいする!」
嬉しそうに手をとり引っ張るので、女性もあららと立ち上がった。子供に手をひかれつつ、どうせなら子供を自宅へ送ろうと思い立ち、そのまま山里へ立ち入ることになった。
そうして幼い子供が、女性と関わったために両親を失い……子供も命を落とすことになると、その時は思いもよらないままで。
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