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「階段上るから……誰かは多分気付くけど、すぐに忘れるよ」 「?」  身を隠すため、幼女はこの城一帯に忘失の暗幕を張り巡らせている。それを術師の子供以外は知る由もなかったが、 「悪魔の城にあからさまに侵入して、全然気付かれないって、本当に信じられない」  呆れながらもひたすら感心したような、赤い髪の娘だった。  回廊の一角に設置された階段に、事もなく到達した一行は、一応足音を潜めて長い階段を上る。 「…………」 「……クウ?」  前を剣士の少年、後ろを赤い髪の娘と術師の子供が行く中、帽子の少年に手を引かれる幼女は、もう一度声をかけた。 「クウ……ずっと、元気ない」 「え? 僕?」  半分上の空だった帽子の少年が、ごめんね、と苦く笑う。たはは、と幼い子供の方を見つめ返した。 「そうなんだよね……何だか僕、自分でもよくわからないけど、さっきから不思議なくらいに元気が出なくて」 「……」  一応自覚はあったらしい。連れ立って歩きながら、幼女はぎゅっと、思わず帽子の少年の手を握る。 「ラピちゃんにこんな顔見せたら、心配するかも。どうしよう……ひょっとして僕、原因不明のウツとかになったのかな」  うぐぐ、と帽子の少年は、それは困ると空いた方の手を掲げて握り締める。 「ナントカの不養生ってどころの話じゃないよね、でも全然、理由がわからないから対策もわからないよ。それって正直一番困るパターンかも……いや、ウツって限ったわけじゃないけど、とにかくよくわからないのが怖いよね」 「……理由はちゃんとあるよ……クウ……」  ただ、それがわからなくされてしまった。あははと苦笑いを続ける帽子の少年に、瑠璃色の髪の幼女は一瞬、青い目が潤んでしまった。  それでもそれ以上は、制限された言葉を続けることができない。  それからしばらく帽子の少年は、何処か物憂げな微笑みを、幼女の手を引きながら浮かべ続ける。  その最上階に続く階段の先。広大な城の主たる女の、貴賓としては慎ましい造りの寝所に辿り着くまでは。
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