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 天蓋付きの広い寝台と、壁にかけられた大きな鏡。ほかには小さな机に、長椅子と箪笥だけが設えられたその寝所で。 「……――」  周囲の様子を見たいと、剣士の少年は階段に残った。それを後ろに、東西に存在する二つの扉の内、一つから一行は中に立ち入った。  幼女は一番に部屋の内に入った。気配で感じていた通り、目的としていたものを確かに確認し、地味に衝撃を受けてしまった。落ち着くためにひと呼吸、と息を飲んで立ち止まる。  その幼女の隣では、帽子の少年が次にそれに気が付く。 「あれ? 枕の上で何かが眠ってる?」  幼女の視線の先では、広い寝台の一角に、その薄い琥珀色のもの。細い体躯で、さも毛皮といったふわふわで大きな尻尾を持つ何かを、帽子の少年が視界に捉えた。 「――……!」  突然その聖域に立ち入ってきた複数の侵入者に、帽子の少年の声で気が付いたらしい化生が、びくりと顔を上げた。 「え? 小さな――……子供の狐?」 「……――……!」  幼女の手を引く帽子の少年の姿に、その薄い琥珀色の何かは瞬時に総毛を逆立てていた。ともすれば襟巻にも見えそうな細身の仔狐がいる。  全く言葉を発せなくなった幼女の目には、それは明らかに先日、召喚した悪魔が肩に乗せていた襟巻と同一だとわかった。 「――あ! 待って!」 「――!」  仔狐は侵入者に怯えるように、素早く身を起こしてもう一方の扉側に走り逃げた。後から入ってきた赤い髪の娘が目を丸くする。 「(くぬぎ)? どうしたのよ?」 「――鶫ちゃん、あっち! 行こう、追いかけよう!」  何故かはいっ、と幼女を赤い髪の娘に渡し、帽子の少年は満面の笑顔で、仔狐が逃げていった扉の方に走り出した。 「槶、何処行くのさ⁉」  慌てて外にいる兄を呼ぶ術師の子供に、帽子の少年は一度だけ――……何故かとてつもなくきらきらとした顔で、同行者達に振り返った。 「可愛いもふもふがいたよ! 捕まえよう!」  ――え⁉ と……幼女以外の誰もが、呆然とする程に。  それまでの覇気の無さが嘘のように、そしてここが悪魔の城と忘れ去った明るさで、帽子の少年は扉から駆け出していった。 「ちょっと――……待ちなさい、槶……!」  一行が万一別行動になっても、城全体をカバーできる暗幕は施してあるため、大きく慌てることはなかったものの。  突然のことにそれなりに衝撃を受けて、慌てて帽子の少年を追った友人達だった。
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