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「もう、何考えてんの、槶の奴⁉」 「凄い速さだな……下手したら本気ではぐれるぞ、これ」  帽子の少年があまりに全速力で走って行ったため、幼女を赤い髪の娘が、術師の子供を剣士の少年が背負い、一行は帽子の少年を追いかける。 「猫羽さん……一瞬しか見えなかったけど、さっきのって……」 「……うん。あれ……ラピスだと思う」  背中の上同士、細かい話はできないながら、術師の子供とひそひそと顔を見合わせる。 「何でまたそんな――確かにあの時、襟巻みたいにあのヒトが一緒に連れてましたけど……」  魂呼も成功していたという幼女の言葉。それを今更のように術師の子供は納得している。 「わからないけど……あれ、多分ラピスのお父さんを殺した、強い火の狐の抜け殻だと思う……」  何度となく観た昏く赤い夢の中で、確かに知っていた炎の獣。しかしそれよりずっと弱小で火の力も無い化生に、幼女も首を傾げる。 「炎は――……お父さんが、持っていったのかな?」  「神」を封じられていた炎の獣。それがある人間の男を殺し、魔物の女性の手で獣も殺された。獣がその後どうなったかは、幼女は知らない領域だった。 「神様はラピスの中に来たけど……お父さんは狐の中に行って、今度はラピスが狐を食べたのかな……?」 「……すみません。正直、わけがわかりません……」  獣に封じられていた「神」は、最終的に瑠璃色の髪の娘に遷った。「神」が消えたその後の獣には、獣が殺した娘の父の命が残った。  炎の適性を持っていたその男が、新たな炎の獣として記憶の無いまま、この城の主の支配下にあったこと。その獣の体が瑠璃色の髪の娘に渡されたこと。 「ラピスのお父さんも……あのヒトと一緒にいたのかな?」  その城主、先日召喚した悪魔こそ、遠い日に炎の獣を使役し、獣の内に「神」を封じた者であること。だからこそ封印が解けるタイミングに魔物の女性を派遣できたことまでは、現状把握に優れた幼女もさすがに探知できなかった。 「ラピスは……お父さんの代わりに、狐になったみたい……」  炎の獣から、もう人間の男は解放されている。残った獣の抜け殻に男の娘、瑠璃色の髪の娘の魂が納められたことを、おぼろげに説明する。 「よくわかりませんけど……」  術師の子供は痛ましげな顔で――最も大切なことだけを尋ねた。 「あの仔には……ラピさんの記憶や意識はあるんですか?」  それはたとえどちらでも、哀しいことだと慮るように。
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