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 その仔狐が自らの友人の変わり果てた姿と、帽子の少年は知るはずもない。逃げる仔狐をただしばらく追いかけた後に、ある部屋の近くに来ていた。 「ここ、元来た部屋と同じ階の回廊かしら?」 「そうだな、似たような景色ばかりだけどな」  階段を降りることをやめ、ひたすら回廊を逃げる仔狐は、この階層と元いた最上階が安息の領域であることを示していた。 「待って、もふもふちゃん! ちょっとでいいから触らせて!」  いつになく強引に、帽子の少年は仔狐を追いかけ続ける。その更に後を追いかけていた友人達は、諦めたように一度立ち止まった。 「最初来た方に帰れば、挟み打ちにできるんじゃないか」 「そうよね……これ以上無駄に、体力も消耗できないし」  背負っていた子供二人を地面に降ろし、回廊を逆向きに向かう。まだ一週はしていない帽子の少年と仔狐が、回り戻ってくるのを待つ方針に切り替える。 「これだけ騒いでて、本当に気付かれないのかしら……」  心配そうに赤い髪の娘が、広い回廊をぐるりと見回した姿に、まるで呼応するように――  回廊から繋がる数々の扉の一つが、不意に開いた。  赤い髪の娘達とは、ちょうど一番遠く離れた方向で、その扉はゆっくりと開いていた。 「……――え?」  ほとんどヒトがいないその階層で、数少ない一人が、その扉から出てきた姿。それに最初に気が付いたのは、ある強い違和感に、大きく首を傾げた術師の子供だった。 「まずい、誰かいるわよ……⁉」  七時の方向にいる娘達と、零時の位置にある扉から出てきた人影。すぐに鉢合わせすることはないが、娘達とちょうど対側……三時の方向の回廊を走る仔狐と帽子の少年が、零時の人影とぶつかるのは時間の問題だった。 「さすがに鉢合わせしたらまずいんじゃないの⁉」 「……気付かないはずだけど……でも………」  焦る赤い髪の娘の足元で、瑠璃色の髪の幼女も強く首を傾げる。 「あのヒトには……見つかる気がする……」  胸騒ぎがしていた。そもそも、侵入者の娘達の存在に気付いたからこそ、その人影は出てきたのだと気が付くように……。  しかしその人影が何者であるか、幼女には全くわからなかった。 「あのヒト……誰?」 「あれ……誰だっけ?」  本来ならわかるはずの相手。そう思ったのに、わからないと感覚が訴える強い違和感。同じことを感じたらしく、術師の子供も呆然としている。  その視線の先にやがて、黒翼を背に、銀色の髪で赤い目の死神が冷然と顕現する―― +++++
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