11/18

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「待って、もふもふちゃん! ちょっとでいいから触らせて!」 「……――……!」  逃げ回る仔狐をしつこく追いかけ回す帽子の少年。ともすればただの、いじめっ子と見えてもおかしくない状態だった。 「どうして逃げるの⁉ 僕達、怖くないよ⁉」  扉から出た銀色の人影は、その仔狐を決して、この城主以外の誰にも触れさせないと決めていた。たとえ帽子の少年が大きな脅威ではなくとも、仔狐が怯えていることだけが重要だった。  仔狐の悲鳴で目覚めた人影は、同時に謎の者達に気が付いていた。 「……何だ……こいつら……」  気付いた傍から、相手が誰かわからなくなる。その不可解に、眠りの世界から抜けきらない人影は眉をひそめる。  袖の無いシンプルな黒衣の躰を鞭打って起こす。おそらく今現在城にいる、どんな悪魔も気が付いていない、謎の侵入者達の元へと足を向ける。 「……侵入者なんて、どうでもいいけど……」  冷え切った声と躰を、着けたままの黒いバンダナで赤く温める。  悪魔に比べて、大した力を持たない人影。それでもそうして、不可解な侵入者に唯一気付ける現状把握の能力を以て、その回廊に人影が出向いたのは……たった一つの理由だった。 「――……え?」  重厚な扉から出てきた人影の、暗い澱みを纏う怜悧な眼光に、そこでようやく、帽子の少年は足を止めて立ちすくんだ。  追いかけていた仔狐は人影の背後にさっと逃れると、人影が出てきた扉の奥へと消えてしまった。 「……狐魄(こはく)に、近付くな」  仔狐を庇うように、黒い羽を持つ人影が扉の前に立ち塞がる。  誰かもわからない相手を、ただその――赤く染まる目で睨む。 「……槶⁉」  そして人影は、腰の短刀をきらりと抜き放った。少し離れた場所にいる赤い髪の娘……それも誰かわからない相手の声を横目に、帽子の少年に容赦なく短刀を突きつけた。 「アンタ達……この城の者じゃないな」  銀色の短い髪を黒いバンダナで包み、バンダナで半ば隠された暗く赤い目に映る者達。  映った傍から意識が消されていくが、それは元々自らが曖昧な人影にとって、ここ最近の不安定で、保てない己の結果と観えたようだった。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加