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最初に入った部屋の柱時計から、難無く魔界を脱出した一行に、手入れした片手剣を片付けたばかりの紅い少女が、くすりと微笑みながら首を傾げた。
「あらら? ……まだ一時間、たってないけど?」
お帰りなさい、と、全員の姿を確認した上で、魔界の扉を閉めた紅い少女だった。
紅い少女と幼女の部屋で、自身の寝台に座る二人と、床に座る男子陣、寝台に座らせた赤い髪の娘がようやく呼吸を落ち着かせる。
「どう? ラピには会えたの、エルフィ?」
「……ダメだった。……兄さんに、邪魔されちゃった」
あらら? と目を丸くする紅い少女の前で、
「本当にあれ、ユーオンだったの? 猫羽ちゃん」
まだ緊張の残る、納得いかないという表情で、赤い髪の娘が幼女を見つめた。
「気配も顔も全然違うし。何か、羽まで生えてたし……」
「忘れてた……兄さん、バンダナすると、ヒトが変わるの……」
はい⁉ と目を見張る赤い髪の娘に、術師の子供が補足に入る。
「凄く強い呪いのアイテム、持ってたみたいだよ、鶫ちゃん。気配も姿も別人にするような……羽については、僕にもあまりよくわからないけど」
何それ? とひたすら、赤い髪の娘が不服げにする。
「確かにあの剣気は――ユオンって言われたら、納得できるな」
剣士の少年は唯一、楽しげな顔であぐらをかいていた。
「それも『銀色』の方だろ。魔界暮らしでいっそう、剣気にも磨きがかかったんじゃないか?」
時により金色の髪が銀色に変わり、その時は何の流血も厭わぬ死神となる少年。そんな知り合いを、改めて場の者に思い出させる。
「でもどうして、ユーオン君が僕達に剣を向けるのさ?」
「あらら。そんなにヒドイ目にあったの? 猪狩君」
うん、と気楽に頷く帽子の少年に、紅い少女も気楽に笑いかける。
そうした者達を前に、幼女は難しい顔付きになる。
「兄さん、わたし達が観えてたけど気付いてはなかった……でも凄い無理して、あそこに出てきてた……」
現在「銀色」が外に出るのが、どれ程負担が大きいか。あの一瞬でも感じ取り、僅かに声が震えてしまう。
「それだけあの、謎の仔狐を守りたかったんだろ」
「……仔狐?」
何故そこまでして、その化生を「銀色」が守ろうとするか。
その意味は気付けなくとも、あっさり状況を見切った剣士の言葉に、紅い少女が怪訝そうに表情を消した。
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