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「…………」
その現実は誰より感じている。灰色猫を抱えながら、幼女はただ黙り込んで俯く。
「ユーオンも山科さん達も、両方危険な目に合わせる可能性が高いわね、エルフィ」
さらりと紅い少女が、最も苦悩する現実を代弁する。
「これ以上は……無理じゃないかしら?」
「……水火……」
あくまでこの状況は、姉に会いたい幼女の我が侭。引き際の判断を促すように少女は告げる。
俯く幼女を気遣うように、静まった場の空気に、
「……無理じゃないだろ」
不服そうに口を開いたのは、剣士の少年だった。
「危険なんて承知の上だし、付いてきたのは俺達の自己責任だ。たまたま最初の敵が、ユオンだったってだけの話だし」
「兄様……」
「あの仔狐が必要なら、俺がユオンの相手をするから、その間に誰かが捕まえればいい。俺も一度、本気のアイツと闘ってみたかったからな」
「ちょっと、蒼――」
無表情でもあくまで不敵な従兄に、赤い髪の娘が顔を顰める。
「蒼かユーオンに何かあったら、どっちにしても最悪じゃない」
そうして至って、真っ当な判断を口にする。
「俺は負けないし、アイツに俺を殺させたりしない」
その相手の兄弟子でもある剣士の少年は、真面目くさった顔でそう宣言した。
「その間に悠夜達が手薄になる方が心配だ。仔狐を捕まえれば、事はすぐに済むのか?」
「……わからない……でも、ラピスとお話はできると思う」
やっと顔を上げた幼女に、僅かに剣士の少年が笑った。
「まさに試練だね……僕も何だか、ドキドキしてきたよ」
「槶……何でアンタ、そんなに気楽なのよ……」
剣士の少年がいない間は、娘が一行の護衛役を引受けなければいけない。そんな責任感を持っている術師の一人、赤い髪の娘が頭を抱える。
「でもまぁ……私も、ラピには会いたいし」
「……鶫ちゃん」
「蒼も槶も、結局はそうよね。猫羽ちゃんのためというよりは……何だか、そうしなきゃいけない気がするの」
「……ツグミ……」
「…………」
詰まりそうな胸で赤い髪の娘を見る。その幼女を無機質に紅い少女がまっすぐに見つめる。
「私達が危険だって、行くのを躊躇う所に、ラピがいるなら……やっぱり、大丈夫なのかどうか、会っておきたい」
たとえその友人の現状をわからなくされた状態でも。それは当たり前のことだと、消えない思いを、赤い髪の娘がそこで口にした。
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