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風邪をひいた。久しぶりに高熱を出した。
熱と言えば、いつも隆を抱く時に、一瞬その体から熱が引く瞬間がある。
それは隆が果てる瞬間を迎える時である。
普通、一番熱を帯びるその瞬間に、何故だか隆は冷静になるのだ。
その冷淡な牙を隠した魔物が、俺はいつか化けて出てくるのではないかと、たまにぞくぞくしながら思い出すことがある。
「りょうさん、行ってくるね。おかゆあるから、梅干しのすりおろしたやつと一緒に食べるんだよ。クエン酸取らないとね。」
「ああ…ごめんな、今日朝早かったのに。」
「ううん。気にしないで。じゃあ、行ってくるね。そうだ、もしかしたら宅配便来るかもしれないけど、不在票で対応するから、無理だったら出なくていいからね。」
「あ、そう。何頼んだの?」
「えっとね、内緒。」
隆は最近、何かを企んでいる顔をする。もうすぐ俺の誕生日だからなのか。
そんな自分本位の理由しか思いつかないなんて、俺も相当自惚れたものだ。
「何だよそれ。ああ…なんか頭ぼーっとしてきた…」
「あんまり考えちゃ駄目だよ。ゆっくり休んでね。じゃあ、行ってきます。」
隆はいつものようにキスをするために顔を擦り寄せて来た。俺は鈍いながらも何とかその要求を拒む素振りを見せた。本当はしたくてたまらないのに。
「あ、いいって。風邪移るかもしれないし。」
「りょうさんの風邪ならいい。」
隆は俺の顔をやさしく包んで、やさしく唇に触れた。舌は、入っては来なかった。
「お前ほんと…」
可愛いやつ。
隆は“行ってきます”の敬礼をして、少しだけ体を跳ねさせながら玄関に向かった。
早く風邪治して早く抱きたいな。俺はそれだけを考えながら隆の背中を眺めていた。
それから2時間程たっただろうか。俺の眠りを妨げる要因が突然やってきた。
どっから入ったんだ、って玄関に決まってるんだけど。
「あれれ、起しちゃったかな?」
「あんた…」
「お兄ちゃんですよ。隆の。」
案の定それは、一番会いたくない、あの男だった。
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