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「君と俺は、色々似ているところがあるようだね。」
「は?」
「君さ、“りょうさん”って呼ばれてない?」
「盗聴してるなら、そのくらいわかってんだろ。」
「昔ね、俺の事もそう呼んでたんだよ。」
「は?」
「あの頃は可愛かったなあ。まあ、今も可愛いんだけどね、なんかもっと素直だったっていうか。」
「今でも隆は素直ですよ。十分すぎるくらいに。」
「そうかいそうかい。まあ、とりあえず今日は帰るわ。また来るね。」
立ち上がる素振りを裏切り、そいつは俺の顔に近づいてきた。目線がぶつかる。目線が俺の唇を犯す。
「おい、止めろよ。」
俺は必死に抵抗したが、いつものように力が入らない。くそ、何でこんな時に風邪なんてひいちゃうんだよ、俺。
「風邪、移しちゃっていいよ。」
「馬鹿か。」
「君の風邪なら、喜んで頂戴させていだたくわ。」
何か、前に聞いたような台詞…いや、聞き間違いか。
「それより、まだ俺と会ったこと言ってないんだろ?」
「言わねーよ。そんなの。」
「まだ言わない方がいいかもね。君が俺の指に反応して、背筋ぞくぞくさせてやなんて。」
「そんなこと…」
「君の指、気持ち良かったよ。可憐に咲く、儚い野花のように。」
「薔薇にしろよ、そこは。」
「はは。強情だな。嫌いじゃないけど。じゃあ、お大事に。」
俺の頭をさらっと撫でて、スキップめいた足踏みでそいつは玄関に向かった。
「俺が合図するまで、絶対に言わないでね。その方がきっと楽しいから。」
「そんな合図無視するわ。」
「はは。じゃあねー野花さん。」
そう言って出て行ったそいつの背中の色気にやられると思ったことは、隆には内緒にしておくことにしよう。
誰が野花だ、調子狂うわ。
to be continued...
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