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苦虫を噛んだかのような顔をしてクロウをライナードは睨んだ。
その後大きく深呼吸をしてクロウに向き直り、彼の眼をジッと見た。
「……なんだよ?」
「……なにも。」
ぶっきらぼうにそう言って、その後にこう続けた。
「怪我の方は?」
「おかげさまでほとんど支障は無い。ちょっと眠くなりやすいぐらいだ。」
「眠くなりやすいのは治療の副作用だ。死ぬ心配のないギリギリの処までの高速治療と、その後の肉体的再生能力の効果を促す魔法を掛けたから身体が自身の再生についていけてないだけだ。」
「……取り敢えず、治療の副作用だということはわかった。」
「………またあの馬鹿の知識だったか…。」
ライナードは何処か、寂しそうな表情をしながら心此処に非ずといった様子で視線はクロウに向いているものの、彼じゃない何処かを見始めた。
しばしの沈黙が二人の間に流れる。
ライナードは焦点の合っていない目で何処かを、クロウはそんな彼を見ていた。
「……………。」
「……………。」
そんな彼等の沈黙を先に破ったのはクロウの方だった。
「それで?お前は此処に戻って来て何をしたかったんだ?まさか俺に奇襲を仕掛けるためだけってわけじゃないんだろ?」
クロウに指摘され、ようやく本来の目的を思い出したライナードは、何処かから短剣を取り出し、横になるクロウの右手辺りに置いた。
「ここは基本安全だ。だがたまに人型のスネークコングのような種類の魔物が、俺の居ない間を見計らって侵入してくることがある。その時に使え。 奴等の好物は新鮮な肉だ。」
ニヤッと笑い、それだけ言うと、今度こそ立ち去ろうとする。
「おっと言い忘れていた。その短剣は奴等がお前に手を出す直前まで使うな。下手したら死ぬが、それでもギリギリまで寝たふりをしていろ。
これはあの馬鹿の言葉だが、『人は追い詰められた時こそ花開き、蕾で終わるか花となって散るかが決まる』そうだ。
だから本当に、絶対にギリギリまで動くな。襲われる前に俺が帰ってきたら助けてやる。」
クロウにそう伝えると、今度こそライナードは洞から出て行った。
「………どういうことだ?ギリギリまで絶対に動くなって?俺に死ぬ想いをしろってことか?」
ライナードの言った言葉の真意をあれやこれやと必死に考えるクロウであったが、再び襲ってきた眠気に考えることが困難になり、そのまま眠りについた。
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