旅~中章~(前編)

22/36
前へ
/141ページ
次へ
状況は誰が見ても絶望的な劣勢だった。 彼女と後ろの結界が壊れるのは時間の問題だろう。それは彼女自身も重々承知だろう。 それでも彼女が諦めることはなかった。 座り込んだ状態のまま、魔力で剣やただの球を造ってそれを投げるだけ。簡単に避けられたとしても、それをアリアレーネはやり続けた。 「流石にもう、我慢出来るかよ……!!」 突如、そんな声と共に後ろのひび割れた結界が壊れ、中から右手に短剣を構えた人影がアリアレーネを庇うようにカニバルモンキー達の前に立ちはだかる。 「今度はお前が寝てろ。」 その人影からそのような言葉が発せられると同時にアリアレーネを護るように結界が張られる。 既にアリアレーネは目が見えていなかったが、それでもその人影の声で誰かはわかった。 わかったと同時に安堵し、安堵と共に先程まで張り詰めていた緊張が解け、彼女は意識を失った。 彼女が意識を失い眠ったことを確認した人影、クロウは左手に闇属性の魔力で出来た剣を造り出し構える。 「お前等……、アリアをこんなにしたツケを払う覚悟は出来てんだろうなぁ…? しっかり命で払ってもらうからな!!」 その言葉と共にクロウは近くのカニバルモンキーへと斬り掛かる。 左の剣でカニバルモンキーの右側、彼から見て左に向け剣を振るう。 カニバルモンキーが彼の右側に避ける。 クロウはその避けられた先、カニバルモンキーの心臓が来るであろう位置へ向け、短剣を突き刺す。 カニバルモンキーはクロウの刺突をかろうじて更に左に跳ぶことで躱す。その時に少しだけ掠ったようで、カニバルモンキーの右脇下辺りに前から背中側にかけて一筋の赤い筋が出来る。 傷の付いたカニバルモンキーはクロウに対する警戒心を強め、彼から距離を取る。 他のカニバルモンキー達も彼等の様子を見ていたため、クロウ、というよりクロウの握る短剣から距離を取る。 一拍の間が双方の間に流れる。 互いに距離を取っているものの、その数は圧倒的差で、どちらにせよクロウ達が劣勢であるのには変わりなかった。 しかしクロウが距離を詰め寄ろうと少し前進すれば、彼の進んだ方向に居たカニバルモンキー達も同じだけ後退した。 クロウが駆け出しカニバルモンキーを斬ろうとすれば、カニバルモンキー達は慌てて逃げるように彼から距離を取った。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

801人が本棚に入れています
本棚に追加