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珍しいこともあるものだ。普段の自分からは考えられない。
黒田がいる所轄だと聞いた途端、キャスターつきのイスをガタンと鳴らした浅野は、自分がいきますと立ち上がっていた。
事件の知らせがあったのは午後八時すぎ。そろそろ帰ろうかとパソコンでの仕事を終えて電源を落としたときだった。
コロシと思われる転落死体が発見されたと一報が入り、現場へ誰か行ってくれと課長から声がかけられた。
警視庁捜査一課の刑事である浅野真史は、イスの背凭れにかけてあったコートをむんずと掴み廊下へ飛び出すと、ちょうどやってきたエレベーターへ後輩とともに飛び乗った。いつも冷静な浅野のその行動に、後輩が驚いて見ているのがわかったが、浅野はその視線に気づかない振りをする。
――何を焦ってるんだ、俺は……。
階数表示を見ながら、気持ちが急く自分に苦笑する。
エレベーターを下りて庁舎を出ると、ひんやりとした夜気に包まれた。三月もあと一週間ほどになったが、夜はまだコートが必要なほど冷える。
駐車場に停まっていた覆面パトカーの運転席へと当たり前のように乗り込む後輩。それとほぼ同時に助手席へと乗り込んだ浅野は、事件に集中しとろ自分を内心どやしつけた。
都会の街はまだまだ活発に動いている。そんな雑然とした街中に、赤いランプの光とけたたましいサイレンが鳴り響いた。
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