398人が本棚に入れています
本棚に追加
――もしかして、動揺してる?
視線が泳ぎ、テーブルの上でカップを弄んでいる。あんなに堂々としている黒田が、浅野の言葉に動揺しているのだ。そんな姿を目の当たりにすれば、わずかな希望に期待してしまう。
だが、今は仮にも仕事中だ。気を逸らすように店のことを話題にした。
「静かでいい店ですね」
「ああ、まぁこの時間はな。昼時や夕方が一番混む。あと一時間もすれば学校帰りの学生でいっぱいだ」
腕時計を見る。三時を少しすぎたところだった。
改めて店内を見てみる。今見ている範囲に従業員の姿は見当たらない。もしかしてここをひとりで回しているのだろうか。
「彼がひとりでこの店を?」
今店内にいるのは、カウンターに浅野と黒田、それから初老の男性がひとり。テーブル席には主婦らしき中年の三人組だけだ。この人数ならひとりでもどうってことはないだろうが、店内がいっぱいになるほど客が入るとなると、とてもひとりでは無理だろう。
「いや、従業員は三人いる。常に店には瑛太ともうひとりがいるようになってて、夕方になると高校から帰ってくる瑛太の弟が手伝うんだ」
最初のコメントを投稿しよう!