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「にいちゃん!」 「いいから着替えてこい。そろそろ込み合う時間だ」  有無を言わせず弟を奥へと押し込んだ瑛太は苦く笑う。 「ほんといつもごめん。何度言って聞かせてもああなんだ」 「それだけ想ってるってことだろう。気にすんな、俺はなんとも思っちゃいねぇよ。可愛いじゃねぇか」 「そう言ってもらえると……。ありがと」 「こっちこそ手間かけた。またな」  ふたりの話に耳を傾けていた浅野は違和感を感じていた。  夕陽が傾きはじめ、空がオレンジ色に変わりつつある外へ出た黒田に続いて店を出る。無言のまま車に乗り込み、浅野は名城兄弟のことを考えていた。  それが顔に出ていたのだろう。知らずに寄っていた眉間の皺(しわ)を指摘され、浅野は疑問をそのまま口にする。
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