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 狭い台所。今夜の夕飯である鍋の中のカレーをかき混ぜながら、理人は不機嫌に口を尖らせていた。 「おお、やっぱりカレーだ。下までいい匂いがしてたからそうかと思ってたんだ」  閉店作業を終えた瑛太が住居スペースである二階に戻ってきた。これからふたりで夕食を摂るところだ。  瑛太の好物であるカレーは、理人の得意料理になっている。店の仕事に加え、料理の苦手な瑛太に代わって料理をするのは理人の仕事だった。 「もうできる? 先に風呂入ってきちゃうかな。……理人?」  返事のない理人に何かを察したようだ。ふたりで並ぶには狭すぎる台所へ瑛太が入ってきて、うしろから理人の腹へ腕を回すと肩口に顎を乗せて覗き込んでくる。 「理人」  甘い囁き。これは、理人の不機嫌を宥めるときのものだ。
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