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月の見えない夜だった。公園のベンチで、一人見上げた空には星があるはずなのに真っ暗で、座ったまま長い時を過ごした。声をかけてきたのは、コンビニの袋をぶら下げた、高校の生徒会長だった。老朽化で取り壊しが決まったアパートから立ち退きを迫られて、途方に暮れていた。理由は色々あるけれど、とにかく行くところはない。事情もよく聞かれないまま、連れて来られた会長の家に上げてもらった。古い一軒家だったが、家人の気配はない。祖父さんが山奥で田舎暮らしを始めたんだ。親爺は単身赴任で地方と、それだけ。母親とか兄弟とかは? 聞こうとしたけれど結局どうでもよくなってしまった。泊めてくれるというのだから、余計な詮索をすることはないだろう。一級上の先輩だから、校内での繋がりは、ほとんどない。図書委員の仕事を任されているので、放課後など、図書資料室にいることが多い。時折、会長は一人で暇つぶしにやって来ていた。締め切った部屋の窓には埃まみれのブラインド。何度か共有した怠惰な行為。いつも隣にいる副生徒会長に羨望を抱きながら、少しの優越感も持っていた。食卓に並べられたのは、ちゃんとした煮込み料理で驚く。二人分の皿が用意されていて笑った。同情されていると思っていたのだ。同病相憐れむ。完治する展望を見通せない病に冒されている私たちは、例え、触れ合えたような気がしても、所詮は互いに薄っぺらな情という皮を被っただけだ。何れ必ず、無慈悲な何ものかに裸にされていく。会長は、暗闇を通り過ぎるべきだった。正体が知れてしまえば、誤魔化すことはできない。朔月のようには、包み隠せやしないのだから。
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