植物の嫁 後編

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「……そうですね」 一息置いた。 目をつむった。疲れていたらしい目は、視界が真っ暗になった事で少しだけ癒されたようだ。 今度目を開けると、口がゆっくり動き出す。 「全てのサイクルをシュミレートするのには、相当な時間がかかったと思いますよ。時間と旅と頭が」 そう、思い出せば。 初めから。記憶が欠けてからなんて三年もあった。 三年間、ツツバヤの面倒を見て、元の姿に戻るよう毎日期待して、待ち続けた。 誰も居ない、何もない『草原』で、二人きり。いや、一人、最悪にはリュだって人とはカウントされないかもしれない。 とにかく、長い時間があった。 「三年間……ツツバヤは根を張っていたんですね」 植物になった彼女は、根を張り巡らせる。 ずっと、ずっと遠くまで。 「ふふ、その通りだ。」 「それで何ですか? この先にはあの故郷が?」 「その通りだ。本当に君はわかってしまったんだね……。仕方がない子だ」 マヘさんが、そっと右手を振り上げた。 その動作。まるで、魔法陣を起動させるような仕草。 ……地面が動き出した! 足がぐらつく。バランスを崩し、後ろに倒れた。 地震。空には、いつの間にか視界全域に広がっていた黒い雲。 不自然だ。ずっと空の元旅してきたリュにはわかる。 墨を混ぜたような黒。マヘさんを中心に、渦巻きながら外側へ外側へ折り重なっていく。 「な…………?! ふざけるな! 何だよ……なんだよこれは!!」 見た事ない。空が、彼の思い通りになっている事くらいは見てとれる。 ドン、と一歩を踏み出す、『テキ』。 「驚くのも無理はないな。すまない、私はこの姿にならければ、どうもウェザブーチェンの所持者は殺せないようで」 にやり、と不敵に笑ったマヘさんの足元、地面からニョキニョキ、スルスルと茶色いツルや木が柔軟に伸びていく。 鞭のように、あるいは生きている動物のように。 『この姿になれないと殺せない』? よく考えろ、この言葉の意味を。 つまりは、…………この姿になれば、不死の筈であるウェザブーチェンの呪いにかかったリュ達すらも殺せる、と……。 殺す事が出来る。 殺される。 「あ……ああ」
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