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迷っている。断言していいだろう。
非常時だ。何かが起こっている。心の中に警告のサイレンが響いている。
体内方位磁石が使い物になっていない。3秒ごとに南の方角が変わっている。
今までこんなことは無かったのに。
混乱していても仕方ない。ここで立ち止まってしまうと、暗い危険な森で一泊することになってしまうだろう。
それだけは避けなければ。
とにかく、方向が『確実に』わからない今、どっちへでもいいから走ってみるしかない。森を抜けられたらクリア、駄目ならゲームオーバー。
確率は低いが、後ろではなく右側を見た。
そして走る。
迷ってなんかいられない! もしもテードではない所に出てしまっても、なんとかなるだろう。
心配なのはマーガレットとラベンダーだ。スミレさんと運良く合流して泊めてもらえば助かるのだが。あの二人は少しも貨幣を持っていないから心配に心配だ。
ぐるぐる回る北の位置に目眩しながら走る。足に感覚はない。生きている心地は、しない。筋肉が張ることもないし、疲れたりもしない。息は切れるが、苦しくはない。
電気の機械が走っている。足を動かしている。
それが、それだけが辛かった。
話もできないツツバヤは、今頃心の中だけで泣いているだろうか。涙も出せずに。
「(一刻も早く、助ける方法を探さないとーー!!)」
加速する。
地面の葉が小さく舞い、小枝に頬を引っ掛け、足は地面から盛り上がる木の根を飛び越す。上を見ても、太陽がどの位沈んでいるのかわからない。
先へ、先へ、先を目指してただひたすら走る。走る音だけが森に残る。
電気になって移動することも考えたが、無駄だろう。障害物が多すぎる上に、風が全くない。真空にも似た状態だが空気自体はある。
植物の多くも止まっていた。不気味だ。生きていないようにも見えるのに、ひとつとして枯れていない。
止まった、木。
「止まった、花…………っ!」
ツツバヤの笑顔が頭によぎる。
同じじゃないか!
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