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とそこへ、ヨットハーバーのけだるい空気を切り裂くように、反重力バイクが五台、猛スピードでハイウェイを降りて来る。その背後をさらに七台の反重力パトカーが、サイレンをヒステリックに鳴らして追跡していた。バイクを操る連中はみな若者で、着衣も派手なものばかりである。
特に先頭を行く若者はひときわ派手だ。ピンク色のラメのメッシュが前髪左側の一部に入る、紫がかった長めの黒髪に豹柄のバンダナを巻き、真紅のジャケットに黒いTシャツ、ヴィンテージものと思しき穴だらけのデニムパンツ。鳶色の瞳の眼は鋭く、白い肌と金のピアスは一見女性と見間違うものの、紛れもなく十代後半の少年であり、生産台数の少なさと性能の高さで、マニアから『お宝』と呼ばれる反重力バイク、『ルキランZVC-686R』の後部座席に、亜麻色の髪をポニーテールに巻いた、美しい少女を乗せている。
その爆音に驚いた者が振り向いた時には、もう視界から消えている程の速度をエンジンから絞り出し、五台のバイクと七台のパトカーは、メインストリートを直進して行った。
暴走バイクの一団を追うパトカーの中では、運転する警官が苛立つ声を、助手席の同僚に向ける。
「まだジャミングが続いてるだと!?NNLに強制アクセス出来んのか!!」
「だめだ!どこで手に入れたんだか知らんが、ガキどものくせに、飛び切り上物のジャミングシステムを搭載してやがる!NNLに干渉して停めるどころか、身元照会も出来やしない!!」
同僚の警官は眼前の空間に浮かび上がる、ホログラムの入力キーをピアノを弾くように叩きながら、エラーの文字しか映らないディスプレイを睨んで、忌ま忌ましそうに言葉を返した。
その直後の十字路で若者達のバイクは右折し、それを見た運転の警官はふん!と鼻を鳴らして言い捨てる。
「いいさ、どのみちもう逃げられん!」
あとを追う警官の言葉通り、右折した道は一本道となっていた。そしてその先にあるのは、海に突き出た円形の公園だけだ。道路はそこでロータリーとなっており、袋のネズミである。
すると若者達は、先頭を走る一台を行かせ、残りの四台が公園の入口で車体を捻りつつ横一列に急停止、通りを塞いでパトカーの進入を阻止する行動に出た。自動衝突回避システムが慌てて作動する七台のパトカーが、互いに反重力場干渉を起こし、突風を発生させて、辺りで見物している人々に砂埃を浴びせる。
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