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俄かに起きた小さな砂嵐に混乱する公園の入口で、パトカーから飛び出して来た警官達が、四台のバイクの若者に詰め寄って行く。
その光景を尻目に、後部座席に少女を乗せた若者のバイクはロータリーを悠然と回り、公園内のファーストフード店が並ぶ区画へ差し掛かると、やがてパステル調の色彩も賑やかな、アイスクリームショップの前で停止した。
運転する若者がモードを切り替えると、二人を保護していたエネルギーフィールドが一瞬、緑色の光を放って消失。そして反重力場を形成する車体前後の円盤が90度回転し、ホイールとなって、従来のタイヤで路面を走行するバイク形態に変形着地した。その向こうでは、今にも殴り掛かりそうな警官に、同じくバイクを変形させた若者達が、「お疲れ様っス!」などの軽口と、白々しい笑顔を向けている。
自分のバイクを降りた少年は、アイスクリームショップの看板を見上げて、後部座席から降りた少女に呑気そうに言った。
「ここかぁ、フェアン。お前の言ってた店って?」
「うん。兄様」
フェアンと呼ばれた少女は若者の妹らしい。よく見れば顔も似ているが眼が大きく、こちらの方が幾分柔らかな顔付きであった。兄のジャケットの色に合わせたと思われる、赤いショートパンツから伸びた長い脚が印象的で、黒のノースリーブがそれを引き立てている。しかし少女が口にした『兄様』とはまた、兄の素行に似合わない上品な呼び方だ。
「今、キオ・スーで一番人気の店なんだって。久しぶりの星都だし、来てみたかったの」
「ふーん…なんか、店も客もパッとしねーけど、マジで美味いのかよ?」
アイスクリームショップには客が長い列を成しており、みな一連の騒ぎに目を丸くしていた。そこに騒ぎの張本人と思われる二人がやって来たのだから、誰もが引いた表情になっている。しかもいきなりこの不躾な言い草である。流石にこれはマズいと思ったのか、妹は若者の脇を小突いて、少しきつい口調で諭した。
「もう、ダメだよ兄様。そんな事言ったら」
しかし諭された当人には、全く気にする様子もない。
「ま、こんだけ人が並んでんだから、全員が味覚音痴でもない限り、それなりの味ではあるって事だよな!」
そう言い放った若者は妹の手を引いて、さも当たり前のように長い客の列を擦り抜け、店の中へ入り、列の先頭、つまり注文カウンターの前へ割り込む。
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