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ノヴァルナは上体を屈めて、用心深くノアに告げた。
「俺も仮説を言わせてもらうが、俺達が本来住んでる皇国暦1555年の世界じゃ、技術的に不可能な『トランス・リープ』も、34年後のこの世界なら技術開発が確立されていて、あの巨大施設はそれと関係してるんじゃねえか?」
それを聞いたノアも頷く。
「私もその可能性は考えてた…でも『トランス・リープ』は、三十年や四十年で確立出来るような技術じゃないわ。だからあれは実験施設みたいなもので、その稼働中に疑似トランス・リープを起こした私達が、実験で出来た次元断裂に引っ掛かって、あそこに出たっていうのが妥当な線かもしれないわね」
ノアの肯定的な意見で、ノヴァルナの視線が真剣度を増した。
「やっぱ、もう一度あの星に行く必要があるな」
「私もそう思う」
ノアが応じて、二人は視線を重ねる。ところがその直後、二人が住む住居の外のやや離れた場所で、ドアを叩く音と人の話す声が聞こえて来た。今の時間は夜の11時を回ったところで、辺りはしんと静まり返っていたため、それは鮮明に聞こえる。どうやら声は複数の男で、強い口調で話し合っていた。ノヴァルナとノアはその声の一つが、カールセンである事に気付く。
不審に思ったノヴァルナはソファーから立ち上がり、ノアに告げた。
「ノア。ちょっと見て来る。ここにいろ」
無論、気の強いノアが納得するはずもない。
「冗談。私も行くわ」
「こっちだ。ガレージに運べ」
ガレージのシャッターが上がり、カールセンの言葉で軽装甲服を着た五人の男が、テントか何かを利用したと思われる担架で、負傷し、呻き声を上げるもう一人の仲間を運び込む。負傷した男は右肩が大きくえぐれており、流血が甚だしい赤黒い傷口には、榴弾の破片と思われる金属片が幾つも突き刺さっていた。
「ルキナ! 医療キットを!」
「う…うん」
カールセンは複雑な表情の妻に強い口調で告げ、担架を持つ男達に命じる。
「そこのシートの上へ」
負傷者を運ぶ四人。残った一人はカールセンの傍らに立ち、肩で息をしながら話しかけた。二十代半ばの銀髪を角刈りにした若者だ。
「済まん、カールセン」
「………」
無言で厳しい目をするカールセン。するとそこに「誰だ、てめぇら!」と鋭い声がする。男達が振り向いた先には、銃を構えたノヴァルナとノアがいた………
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