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エンダー夫妻の家に負傷者を担ぎこんで来たのは、およそ一週間前、ノヴァルナとノアがサンクェイの街でオーガー一味との戦闘に遭遇した、レジスタンス達であった。
斜め向かいに住むノヴァルナが、物音と人の声を不審に思って様子を探りに来た時、カールセンと共にいた銀髪角刈りの青年は、彼等レジスタンスのリーダーだという。
負傷者をガレージで仲間に治療させ、リーダーの若者はカールセンと、ノヴァルナとノアの四人でリビングにいた。若者とカールセンはソファーに腰掛けているが、ノヴァルナとノアは立ったままで、気を許していない事を示している。
カールセンは壁に寄りかかるノヴァルナにリーダーの若者を紹介した。
「彼はケーシー=ユノー。レジスタンスの指揮官の一人で、星大名ダンティス家配下の大尉だ」
「………」
ノヴァルナは無言でケーシーを見据えた。星大名の一族であるノヴァルナの見立てでは、ケーシーはその居ずまいから武人の家系ではなく、士官学校出の民間人のように思える。武人の家系なら、どこかしらそういう空気を纏っているのが分かるからだ。
一方のケーシーは疲労が目立つ顔であっても、その目は鋭く、ノヴァルナとノアに視線を注いでいた。乾いた声でカールセンに問い掛ける。
「こいつらは? カールセン」
「ああ。ノバック=トゥーダと従姉のノア…俺の仕事仲間さ」
少し間を置いて仕事仲間と紹介したカールセンの言葉に、ケーシーの警戒する眼差しが厳しさを増すのを感じ取り、ノヴァルナはあえてさりげなく付け加えた。
「ウォーダ家の軍でパイロットをやってた」
それを聞いてケーシーは「なに?」と怪訝そうに言い。カールセンは小さくため息をついて、ノアは“なぜそれを言う”と僅かに眉をひそめた。
「ウォーダ家だと? なんで関白の軍のパイロットが、女連れでこんなとこにいる? それにこんな子供がパイロット?…ASGUL乗りの訓練生だろ」
ケーシーの言い分ももっともだった。ノヴァルナらは星大名の子弟であるからこそ、パイロットをやっているようなものであり、世間一般の十代半ばの若者であるなら、訓練生が関の山なのだ。ただやはり今のウォーダ家は関白家というのが、この世界では常識であるらしい。
その辺りは置いといて…とばかりに、ノヴァルナはノアを指差してあっけらかんと言い放つ。
「こいつと駆け落ちして来た」
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