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「はぁ!? ちょっと、何言ってんの!!」
カールセンに冷やかされる度に二人で散々否定していた“駆け落ち説”を、ノヴァルナ自身が口にしてノアは頓狂な声を上げた。するとノヴァルナはノアに顔を寄せ、小声で告げる。
「いーじゃねーか。もう、いちいち否定すんのも面倒臭ぇから、そうしとけ」
「そ、そうしとけって…」
不満を言いたいノアであったが、口調と裏腹なノヴァルナの真剣な目つきに、いま話を混ぜ返すのは得策ではないと感じて思い止まる。その直後、ケーシーは「はん!」と鼻先で笑った。
「おかしなガキ共だな。カールセン、こいつら信用できるのか?」
顎をしゃくって問い質すケーシーに、隣に座るカールセンは苦笑混じりに応じる。
「まあ。悪い奴じゃないのは確かだ」
するとノヴァルナは、壁にもたれていた背中を跳ねさせて直立し、不敵な笑みを見せた。
「信用できるのか…か。それなら俺達からも言わせてもらうぜ」
「ん?」と振り向くケーシー。
「カールセン。あんたこそ、何者だ?」とノヴァルナ。
「………」
ノヴァルナが疑念の目を向けたのはケーシーではなく、カールセンであった。無言のままに、カールセンの表情が俄かに曇る。ノヴァルナは柔らかな口調でさらに追及した。
「…本当はあんたも、元は武家の出だろ? 俺のパイロットスーツの家紋を見た時、あんたは俺に“ウォーダの家中の者か”と訊いたよな。素人の一般人が、即座にそんな物言いはしねえぜ」
「む…」
「それにあんた、このレジスタンスの連中とは直接の繋がりはねえようだが、その反面、一目置かれてるのが、連中の態度から見て取れる…少なくとも、そういった敬意を払われる立場にいたはずだ」
「若いのに、なかなか鋭いじゃないか。ノバック」
感心してみせるカールセンの目は、いつの間にか鋭い眼差しになっている。
「こういう展開になった以上は、俺達もあんたを信用しておく“担保”が欲しいからな」
カールセンは、自分が武家の出だという事を見抜いた上で、臆することなく対等以上の立場を貫くノバック(ノヴァルナ)を、やはり単なるパイロットではないと感じた。正規パイロットであれ、訓練生であれ、相手が十歳前後も離れた高級士官だと分かれば、他家であっても謙譲的になるよう、基礎訓練課程で精神に叩き込まれているはずだからだ。
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