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「おまえさんの言う通り、俺は武門の出だ」
カールセンはこれ以上隠し立てしても仕方ないとばかりに、ノヴァルナに打ち明けた。
「ただし、ウチの家系は武官だった」
それを聞いて、ノヴァルナはなるほどと思った。この世界で言う武官とは、代々軍人である事を表す武門出身の、政治官僚を示す場合が多い。それに対して民間出身の政治官僚は文官と呼ばれている。ノヴァルナはカールセンを只者ではないと思ってはいたが、武将と言うには違和感を感じていたのだ。
「武官か。レジスタンス側って事は、ダンティス家の駐在武官か?」
この惑星アデロンは、今はマフィアのオーク=オーガーというピーグル星人が、独立管領気取りで支配しているという話だが、以前は星大名のダンティス家の支配下にあったらしい。ノヴァルナはカールセンが、そのダンティス家の駐在武官の居残り組だと推測したのである。ところがカールセンは「いいや」と否定する。
「俺は…アッシナ家に仕えていた」
「アッシナ家? だったら敵側じゃねえのか?」とノヴァルナ。
「ま、その辺りはいろいろと事情があってな…」
言葉を濁すカールセンに、ノヴァルナは「わかった」と簡単に了承し、言葉を続けた。
「事情があるのは俺も同じだからな。レジスタンスの連中がいる前で普通に言えるってのは、まあそういう事なんだろぜ」
そこにカールセンの妻のルキナが現れて沈痛な声で告げる。着衣には負傷者のものと思われる血液が、所々に染みついていた。
「怪我人の治療は終わったわ。でも…」
“このままじゃ助からない”という言葉を言外に感じさせるルキナ。カールセンはケーシーやノヴァルナに目配せしてソファーから立ち上がり、様子を見に行く事を促した。ノアに目配せがなかったのは、重傷者をわざわざ若い女性のノアに見せる事はないという配慮だったが、ノアも当然のようにノヴァルナについて行く。
負傷したケーシーの部下は、肩から胸に幾重にも包帯が巻かれた状態で、シートの上で意識を失っていた。傷口の中に刺さる榴弾の金属片を注意深く抜き取り、止血処置と消毒を済ませ、大判の組織再生パッドを並べて貼った上に包帯を巻いたルキナの手当は、手持ちの器材を使用して出来得る限りのものだったが、それでも出血がひどく、包帯には血が滲んでいる。
「ごめんなさい。ウチにある医療キットじゃ、これが精一杯で…」
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