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ノヴァルナの言葉をキッチンで聞き、ノアは考えた。ノヴァルナと知り合ってまだ二週間ほどだが、複雑怪奇なあの若者の思考も、だいぶ理解出来るようになっている。エンダー夫妻に対して素っ気無いような今しがたの振る舞いも、内心ではひどく気に掛けているに違いない。
あの未開惑星で、貨物宇宙船の乗組員のならず者達が、原住民の村を襲って住民を遊び半分に惨殺していたのを見た時、ノアは原住民の救助を提案したのだが、ノヴァルナは素っ気無くそれを拒絶、ノアを怒らせた。
だがその後のやり取りで、ノヴァルナという人間は、自分の判断や行動が自分自身で納得できない場合、むしろその対象の相手に冷淡な反応を見せるらしい…と、感じられたのだ。
まったくもってタチの悪いひねくれ方だと言えるが、それとわかって以来、二人の口喧嘩の回数が減っているのも事実である。
「あなたがそう言うなら、わかったわ」
つとめて納得したように応えたノアは、ルキナから分けてもらった食材のジャガイモを手に取り、声高に明るい調子で話題を変えた。
「それより、明日は期待して。私がご飯作ったげるから」
「うげ」
「“うげ”じゃあない!」
翌日早朝―――
ノヴァルナ達の暮らすタペトスの町に雪は降っておらず、空は灰色がかった分厚い雲が低く垂れこめていた。町を挟み込むように両側にそり立つ山脈は、頂に向かうほど白い霧が濃くなり、やがては雲と一体化している。
昨夜もソファーで眠りについていたノヴァルナは、意識の立ち上がりと共に、閉じた瞼に朝の光を感じ取り、毛布を喉元までたくし上げて寝返りを打った。
すると聴覚が遠くの方で微かに響く、ズン………という音を捉える。
“んん?…山鳴りかあ?………”
ぼんやりとした意識の中でそう判断し、もう少し寝るか…と考える。そういや今日は、ノアがメシ作るんだっけ?…いつ支度始めるんだ、アイツ………と思いながらまどろみかけると再び、そしてやや大きく、ズズン…と音が聞こえた。
“?…”
さすがに今度は訝しみ、ノヴァルナは目を閉じたまま神経を集中させる。
ズズズン………
岩を叩くような音と震動。目を開けて警戒心のレベルを上げる。
ズズズン…ズズズズン…ズズズズズン!…
規則的な地響きが始まり、ノヴァルナはソファーから跳ね起きた。
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