第8話 悪代官の惑星

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   ノヴァルナが跳ね起きるとその直後、ノアも寝室から飛び出して来た。互いに顔を見合わせ、住居から外へ向かう。  町の通りには他の家の住民達も姿を現しており、それぞれの家族が身を寄せ合って、怯えた顔で顔を上げ、不安そうに辺りを見回す。  不気味な地響きはなおも続き、白い霧のかかる峰々にこだました。音が次第に大きくなる事から、何かがこの町に向かって来ているようであったが、連なる山々に反響し、どの方角から接近しているのか判断がつかない。 “どう考えても悪い予感しかしねえぜ…”  鋭い眼差しで、霧が隠す山頂の辺りに視線を走らせたノヴァルナは、集まった住民達が背後でひそひそと、「城だ…」「城が来る…」と囁き合っているのを耳にした。意味が不明の言葉に、ノヴァルナはその一団を怪訝そうに振り向く。すると視界に入ったエンダー夫妻の家から、カールセンとルキナが遅れて出て来るのを見掛けた。二人の緊張した面持ちは、不安がる他の住民達とは一線を画しているようにノヴァルナには見える。 「カールセン!」  自分の悪い予感の一因が、エンダー夫妻とレジスタンス達にあるのを感じ取り、ノヴァルナはノアと共にエンダー夫妻に早足で歩み寄った。 「ノバック、ノア」  カールセンとルキナは固い表情で返事する。 「あの音は何だ? 知ってるんだろ?」  そういうノヴァルナは内心では、昨日の夜エンダー夫妻のところに逃げ込んで来たレジスタンスと、何か関連があるのではないかと尋ねたかった。しかし周囲に他の住民がいる中で、迂闊に口には出せない。  すると岩盤を金属で重く叩くような音の連続が一段と大きくなり、カールセンはノヴァルナの背後に向けて顎をしゃくって告げた。 「あれさ」  その言葉と同時に、住民達が一斉にカールセンの示した方向を向いて、悲鳴に近いざわめきを上げ、ノアも「ああ…」と怯えたような声を漏らす。そして、ぐるりと全身で振り返ったノヴァルナは、大きく開けた両の眼で見た。 山腹を這いながら町に近付いて来る、超巨大なムカデを。  それは全長が三百メートルを超えるであろう、金属製のムカデロボットであった。漆黒の胴体は二十二個の節に分かれ、頭部と最後尾を除く全ての節に、長さが十五メートルはある赤く太い脚が生えている。それが霧の中から雪の白と岩の焦げ茶に塗り分けられた山肌を、斜めになって這って来たのだ。  
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