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オーク=オーガーの巨体のせいで狭苦しい印象の反重力モジュールは、ノヴァルナとノアのいる住民の集団の十五メートルほど前方の、高さ三メートルぐらいまで接近した。そこでオーガーは操縦者の配下に、彼等の言語で停止を命じる。
「バンナッシュ・サシュ!」
ノヴァルナとノアが初めて聞くオーク=オーガーの声は、機動城『センティピダス』の足音のように、地鳴りを伴うような不気味な響きがあった。
やがて反重力モジュールは空中に停止し、前後から住民達を挟む兵士達がサブマシンガンを構え、横一列に進み出てモジュールの前で人垣を作る。恐怖でざわめく住民達。ただその中でも、ノヴァルナは顔色一つ変えなかった。その代わり傍らにいたノアの手を引き、さり気なく背中の陰に隠す。
“え?…ノヴァルナ…”
ノヴァルナが自分を守ろうとしている事に気付き、ノアが胸の内で呟くとその直後、反重力モジュール上のオーク=オーガーが、銀河皇国の公用語で住民達に告げ始めた。割れるような大声だ。
「サンクェイで大規模な戦闘があった。三日前だ」
そこでオーガーは一拍置き、右手に握る黒い金属棍を軽く振って左手でバチリと受け止める。
「反逆者どものテロのせいで、サンクェイは火の海になった。何人も死んだ」
そこでまた金属棍を左手にバチリと鳴らす。
「だぁが!…奴等は負けた! アデロンの平和を守るこのアッシナ家代官、オーク=オーガーの正義の前に敗れ去った! 俺達は勝利したのだ!!」
オーガーの言葉を聞きながら、ノヴァルナは“ああ、コイツはダメだ…”と白けた目をした。古今東西“平和”だの“正義”だのを安売りする奴ほど、胡散臭いものはない…それがノヴァルナの持論である。
麻薬マフィアの親玉なら、やっている事はともかく、それなりの矜持や主義主張があるはずだと考えていたノヴァルナだが、オーク=オーガーの立ち居振る舞いをひと目見て、この異星人は単なる利己的欲望だけで行動している、小悪党の類いだと見抜いたのだった。マフィアのボスというご大層な地位も、たまたま人生のサイコロでいい目が出た結果なのだろう。
ノヴァルナは年齢はまだ十七歳だが、人間を見抜く目は鋭い。これまで星大名の嫡男としての立場から、様々な人間に接し奇行を重ねる陰で、常に自分を見る相手の目から、その人間の本性を探って来ていたからだ。
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