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辞令が出て2週間後。
あたしは今、『MARRY』の本部が入ってるビルの前に立ってたりする。
断るって方向もあったと思う。
でも、この仕事が好きって気持ちに勝てなかった。
これを断ったらそれこそこの業界には残れないだろう。
エレベーターに乗って事務所のあるフロアへ。降りるとその廊下にはたくさんの反物が壁にかけられてた。
真夏に真冬の服を、秋には春物を。
この世界では流行を先取りして商品を作り上げる。
いや、ちょっと違うかな?
流行って言うのは勝手に出来るものではなくて、作り手によって出来上がっていく。
例えばパリコレだったりとか、そう言うのを見て模倣していくといってもいいかも。
だから目の前にある生地は春物。
薄くてカラフルでウキウキするような――。
「おい」
「ひぃ!」
「……いちいち悲鳴を上げるな」
「……」
なら、普通に話しかけてよ……。ううん、それでも多分あげちゃうと思うけど。
振り返らなくても、その声の主は分かるけど振り向いた。
だって、今日から彼があたしの上司になる人だし。
「おはよう、ございます」
だから取り合えず挨拶をしたのに。
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