憑火「Deadman's midnight」

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 マリンエッジ。それは海に浮かぶ巨大な海上都市だ。マリンエッジは物理的な意味で海に浮かぶ。  最新の自然科学、最新の環境科学、最新の社会科学、最新の建築科学、最新の情報科学、最新の文化科学、最新の心理科学。あらゆるものが最新であらゆるものが近未来的であらゆるものがβだ。この都市のミッションはアーコロジー。完全環境都市だ。全てのものがマリンエッジ内で完結しなければならない。マリンエッジが消費するエネルギーはマリンエッジで生産し、マリンエッジが消費する食糧はマリンエッジが生産する。マリンエッジ以外の文明が突然滅んだとしてもマリンエッジは影響を受けずに稼働し続ける。そんな夢のような都市だ。  しかしマリンエッジはそんな完全性を持ち合わせていない。それはマリンエッジが実験都市だからだ。比較的実現が簡単なエネルギーは自立しているものの、食糧は輸入が多い。マリンエッジの住民はモルモットのように制約され、監視され、試される。祖父の死も(死自体はごく自然に発生した現象だったが)実験されている。  そんな科学的な都市で、僕はかなりオカルトだろう。  僕は研究室に来る前に葬儀が行われる場所を訪れていた。セブンアースというエリアにある"ボーダーガーデン"と呼ばれる植物園だ。そこは憩いの場所でありそして墓所でもある。約500人を収容するマリンエッジで唯一の墓所だ。その数が多いと感じるか少ないと感じるかはマリンエッジ、特に僕の姉である春美が所属する研究室の研究についての知識の有無によって別れる。僕は多いと感じる方だ。  理工学術院環境社会システム研究科建築システム専攻のとある研究室、そこは”デスラボ”と呼ばれる。  ボーダーガーデンには案の定、憩いを目的としていない人たちがいた。彼らは僕を見た。興味本位の暇人か、マスメディアの類だ。僕の顔も調査済みということらしい。  そういう奴らがいる。そのことを確認して僕はそこを立ち去った。
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