憑火「Deadman's midnight」

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「気が早い連中がもう待ち構えていた」  僕の報告に戸倉は呆れ顔で暇人だなぁと言う。そうかと思うと今度は面白そうな顔を見せた。 「で、幽霊はいたか?」 「戸倉さんも大概気が早いな。まだあそこに遺体はない」  でも、いないと言えば嘘になるかもしれない。微妙なところだ。 「お爺さんっぽい”無意識の残留”は感じる。自身の死については結構静かだった。不安はなく期待と、好奇心かな。死後の世界への好奇心なのかと最初は思ったけど、ボーダーガーデンに行ったらわかったよ。現世での死後への寂しそうな好奇心だ。そんな感じの、結果を感じた。野次馬については快く感じなかったようだけど」 「寂しそうな好奇心?」 「うん。世界初の民主的な死とやらを体験できる栄誉、孫が関わったシステムを体験できる喜び。だけどそれを自分の目で見ることは叶わない。そういった推測が妥当なところじゃないかな」 「なるほど、面白いね。ますます電脳化していないのが惜しい」 「18になったらね」  不便じゃないのか、と戸倉は笑う。電脳化の下りは軽い冗談だ。  脳科学は飛躍的な進歩を遂げ、コンピュータは小型化し省電力化し高い処理能力を得た。脳とコンピュータを繋ぐ高度なインターフェースが実現し、接続する手法は電脳化と呼ばれる。  僕は電脳化をしていなくて彼はしている。頭の中に埋め込まないアクセサリタイプの電脳化もあるが僕はそれすらしていない。電脳化をすれば僕が言う無意識の残留を解析できるのではないかというのが戸倉の主張だ。電脳はそのインターフェースの都合上、脳を高解像度で読み取るからだ。最も、彼自身真面目に解析する気がない辺りが冗談なのだ。  不便さを感じなくはないけどこの程度の不便さを許容できるぐらいの心の余裕は欲しいかなというのが僕の主張だ。光の速さで行動しようとは思わない。  しかしこのマリンエッジでは18歳になったら電脳化を義務付けられている。それも脳の中に埋め込むインプラントタイプだ。そういう契約の基でマリンエッジに移住した。だから18歳になったら否が応でも電脳化する。 「それに」僕はいい加減に続ける。「電脳化したらそれを感じられなくなるかもしれない」
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