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結婚して半年の高山直子は、奇妙な出来事に直面していた。
朝起きると、リビングのテーブルの上にDVDが一枚置かれているということがここ数日、毎日のようにあった。DVDが初めて置かれたとき、DVDには「A」という文字が書かれていた。次の日は「B」と、毎日順番にアルファベットが書かれている。最初は夫の信治が何かを録画しているのだろうと思っていたのだが、昨晩信治が
「あのDVDお前のだろ? 片付けとけよ」
と口にしたことで、直子はそれが奇妙なことだと初めて実感したのだ。
「どういうこと? あれ、信治が何かを録画してるんじゃないの?」
「は?……俺のじゃないよ。直子のだろ?」
「え? 私のじゃないよ!」
二人は初めて無言になった。
このアパートの一室には、夫婦二人だけ。
お互いの知らないDVDは、毎日一枚ずつ増えていく。今もテーブルの後ろにあるテレビのラックの中にそのDVDは入っている。
夫の物だと思って放置していた直子。妻の物だと思っていたが邪魔だったので毎朝片付けていた信治。その互いの思い込みが今、明らかになったのである。
真っ先に思ったのは「この家に誰かが住んでいる」ということ。信治は直子をその場に待機させ家中を調べた。しかし、誰もいない。
信治がリビングに戻ると、直子が今までのDVDをテーブルに広げていた。
「誰もいなかった」
信治の言葉にほっと息を吐く。
「……これ見て。この字、私たちの字とはやっぱり違うみたい」
「この字……何か子供っぽいな」
「確かに、ちょっと線が歪んでるし大きい文字だけど……」
二人に子供はいない。
この不気味な出来事に顔を見合わせた。信治は無言でDVDの一枚を手にすると、テレビ下のDVDデッキにそれをセットした。
しかし――
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