第1章

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蛇のように繋がれたチューブの一本でも踏めば日向を殺してしまいそうだった。看護師が出て行くように叫ぶ。  死が、そこまで迫っていた。痛烈な重みが俺にのしかかる。 日向が死ぬ? 俺とお前の日々が終わってしまう? そんなの嫌だ!! 目の前を全て、真っ黒な闇で覆われて泣き出すこともできずに立ち尽くす。 『和雄、さん』 「日向っ!!」 暗闇を照らす、一点の光がさした。 『指切り、しましょう。私が、貴方と、貴方との未来をずっと一緒にいられるよう、ゴホッ!! ゴホッ!! ブッ!? ハァッ、ハァッ、ハァッ!!』 「ああ、指切りしよう。俺達はずっと一緒だ」 指切りをした。小指同士を絡ませて、その直後、日向の小指がスルリと落ちた。 「全部、夢だった」 病室のベッドで俺は呟いた。切り落とした左腕はもうない。救急車で運び込まれ、手術して、意識が戻ったのは数週間後のこと。 「全部が夢だったわけじゃない。ただ、貴方は日向さんの死を受け止められず、妄想に浸ることで全てをなかったことにしていただけ」 「仮音(カオン)」 「って、何度も説明したけど?」 呪いを解いてくれた少女こと、仮音はキョトンと小首をかしげた。 「自分の妄想癖のたくましさに驚いてたんだよ」 「ヘビーでしたもんね。蛇だけに」 「つまらないシャレをやめろ」 「うむ、最後に言っておくことがあった」 俺の言葉を無視して、仮音は言う。 「呪いは解いたけれど、その傷跡がなくなったわけじゃない。これから貴方には、良縁はない。いくら良好な関係を築いても特別な関係にはなれない」 恋人を作ることはできない。 「ああ、わかった」 清々しい気持ちで答える。仮音は言っていた。呪いを解くことは失うことだ。左腕を失って、誰かと特別な縁を繋げなくなっても、 「俺には、大切な思い出があるんだ」 「そして、また、くそ重たい妄想話を展開させるんですね。仮音さん、わかります」 「しねーよ」 「それでは」 仮音はすっと立ち上がる。 「仮音」 「なに?」   「また、呪いを解きにいくのか?」 「うん、それが私だからね」 ピシャリと扉が閉められる。誰とも縁を繋げない。それは仮音も例外ではない。扉を一枚、隔てただけでプツリと途切れ、仮音はさようならだけは言わなかった。 「いつか、また、会いたいな。仮音」 さようならは言わない。
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