第1章

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ヌルリと指先に何かが絡みついてくる。ザラザラとした肌にヌメッとした感触が気持ち悪い。指先から腕を伝い、ゆっくりとそれは腕に絡みついてくる。 メシリ、メシリ、メシリ、メシリ、メシリ。 腕に絡みついた何かがゆっくりと腕を締め上げた。痛い。とても痛いけれど、声は出なかった。肉がよじれて、骨が砕ける。痛みに全身がビクビクと痙攣していく。溢れ出す涙が頬を伝うのに、声だけは出ない。助けてくれ、助けてくれ、誰か、この腕に巻きつく何かを取ってくれ。 「あ!! ああああああああああああああああああああ!!!!」 ビッショリと汗に濡れたシャツが気持ち悪かった。また、あの夢だ。何度も俺を苦しめる、よくわからない悪夢に数ヶ月、悩まされていた。仕事も休み、家で療養してもいっこうによくならない。病院に行っても原因不明か、ストレスだろうと言われるだけ、クソッ、やぶ医者がと悪態をつくと、ブブフブフと携帯がバイブレーションを鳴り響かせる。 汗だくで、シャワーを浴びたかったが携帯の相手を無視すれば、きっと面倒なことになることは明白だった。震える手で携帯の通話ボタンを押す。 『もしもし、和雄さん?』 和雄、雄馬和雄(ユウマカズオ)俺の名を女が呼ぶ。全身に吹き出した汗が不快で仕方ない。 『どうしたの? 和雄さん、声が震えているようだけれど、何かあったの? お仕事もお休みしてるそうだけれど、私、そっちに行くべきかしら』 「いや、いい、来なくていいんだ」 俺は別の意味で冷や汗をかきながら、声を出した。左手の小指があった場所がズキズキと痛んだ。その小指はもうどこにもないとわかっているのに、未だに幻視痛に悩まされている。 『いいえ、心配だわ。和雄さんって私がいないとすぐにだらしない生活をするんですもの、今日、そちらに伺います。待っていてくださいまし』 いや、おいと声をかける暇もなく、一方的に通話が切られる。 来る。智恵が、日向智恵(ヒュウガ、トモエ)がここに来る。俺の小指を奪った女がここにくる。俺は握りしめた携帯電話がガタガタと揺れていた。 相手は女だ。俺は男だぞ。女くらい組みしていて、数発、殴れば黙らせることぐらいできるさ。そうだ。そうだ。そうに違いない。 いいや、本当にそうか? あの女は本物の鬼だ。あの女に逆らえば、今度は小指程度では済まない制裁が待っているかもしれないのに? イヤだ。
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