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からかわれたことに対する苛立ちが、俺の中に膨れ上がった時、そいつはトンと現れた。暗闇から抜け出るように、部屋の中心に着地する。
真っ黒な着物をきた少女だった。髪は長く、異様に目が大きくて赤い瞳、青白い肌は、死人のようだった。
「呼んだ?」
日本人形のような少女が、呟くように言った。
「呼んだっ、これのことか?」
「そう、貴方が電話したから来たの」
「どうやって、来たんだ?」
「異界。この世とあの世の境目、人の意識していない影の部分って言えばわかる?」
中二病かよと、大人をからかうなと笑い飛ばすことはできたかもしれないが、俺にはそんな余裕はなかった。
「ああ、なんとなくな」
「わかってないわね。まぁ、いいけど、貴方の呪いは、その左手よね」
少女は、スーッと俺に近寄ると、左手を取った。氷のように冷たい手だった。
「蛇、蛇の呪い。それも繋がってる。このまま入れ墨が貴方の首に登れば」
「登れば?」
「首が締め落とされて死ぬ」
「嘘だろ」
「嘘じゃないわ。蛇はね、人を呪うのよ。臆病で、怖がりのくせに他人と繋がりたがる。ゆっくりと、ゆっくりと締め上げて、丸呑みしてしまうのよ」
少女は淡々とつげる。大きな瞳で俺を見つめていた。無表情なのが、さらに怖い。
「どうすればいい? 呪いってやつをどうしたら無くせるんだ?」
「手っ取り早くすませるなら、蛇の入れ墨ごと腕を切り落とす」
「できるわけないだろ!!」
「麻酔はつかうわよ」
「そういう問題じゃない」
呪いを解くために、片腕を失いたくない、麻酔する、しないの問題じゃない。この少女はいったい何を考えてるんだ。
「我が儘なのね、それじゃあ、入れ墨が刻まれた皮膚を剥いで、別の皮膚を貼り付ける」
「却下だ」
「腕はなくさないわ。ただし、サイボーグみたいな肌になるけど」
「余計に却下だ」
「我が儘なのね、呪いを解くには代償が必要なのよ。何かを失う、覚悟が必要なの」
少女は淡々とつげる。赤い瞳からは何の感情も読み取れず、俺は狼狽するのみだ。
「仮にそんなことしても、俺には別の呪いがある」
「別の、呪い?」
「付き合ってた女だよ。今もつきまとわれてる。仮に皮膚や腕を無くしてみろ。世話をする口実をあたえるだけだ」
「いいえ、違うわ。貴方にかかっている呪いは一つよ」
少女は小指の切断面に触れる。
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