第1章

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「貴方の小指を切断したのは、貴方の彼女さんよね?」 まるで、見透かしたかのように少女は、呪い、これが呪いの根元だと言うように、いや、俺は心のどこかであの女が関わっているかもしれないと思っていた。暴力では勝てないなら、もっと別の方法で相手を貶める。 蛇のように狡猾で、臆病で、執念深い、あの女らしいとそう思ってしまった。あの女なら呪いくらいかけてきてもおかしくないと思ってしまう。巻きついて、離れない。 「話してくれる? 貴方の彼女のこと、どうして、小指を失うことになったのか。詳しく」 「どうして、話さないといけないんだよ」  「呪いを解くため、貴方に繋がった蛇を断ち切るには、貴方の思い出と気持ちが必要。腕を切り落とすことや、皮膚を失いたくないのなら、貴方は話して、呪いとの縁を切るしかないわ」 少女は言う。呪いとは、喪失だ。何かを失う覚悟がなければ、呪いは解けない。 「ああ、下手くそだけど、いいか?」 「構わない。話して」 日向智恵と出会ったのは、高校生のときだった。たまたま、席が隣同士で知り合いのいない高校に入学した者、同士という縁もあって、俺達はすぐに打ち解けた。 日向は、あまり人付き合いが得意じゃなかったから、俺はずっと側にいてやんなきゃって変な正義感に燃えた。それは恋だった。こいつを守るみたいな、青臭い正義感と、高校生になったっていう高揚感が俺にはあったんだ。付き合うことになったのは、高校二年生の文化祭の二次会のとき、気分に乗せて告白、日向もオーケー。 最高だった。人生で一番、ハッピーな日々になるはずだったけれど、そんなのはすぐに終わり迎える。 日向が豹変した。毎日、毎日、電話をしてくる。朝、昼、晩と世話をしたがって他の女と話そうものなら、金切り声を上げて暴れまわった。 俺は日向智恵の一面しか見ていなかったんだ。あの女は何年も、何年も緻密に計画してた、俺が日向に告白することも、好意を寄せることも、全部、想定していた。わざわざ知り合いの居ない高校に入学したのも、中学生の頃の日向を知られないため。 日向智恵は、典型的な束縛彼女だ。好意を持った相手のプライベートを調べ突くし独占する。そういうことを中学生の頃から繰り返していた。 悪党だった。最低な女だったけれど、日向はそれを隠した、周到にボロを出さずに人付き合いが苦手なか弱い少女を演じることに徹底した。
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